将棋の最年少タイトルホルダー、藤井聡太王位(棋聖=18)が豊島将之竜王(叡王=31)の挑戦を受ける、第62期王位戦7番勝負第2局が13、14日に北海道旭川市で行われます。第1局は藤井が完敗し、豊島との通算成績は1勝7敗。「なぜ豊島に苦戦するのか?」。第1局の終局後、藤井のインタビューを聞きながら、かつて取材した引退棋士(七段)で、AI学者の言葉を思い出しました。

「AI的な感性からみると、2人の指し手はすごく似ている。もっと言うと、藤井さんの読み筋と豊島さんの読み筋は合う」

87年新人王戦準優勝の引退棋士(七段)で、AI学者の北陸先端科学技術大学院大学の副学長・飯田弘之氏(59)は、そう分析しました。

年齢はほぼ一回り違う2人ですが、将棋ソフトを研究に取り入れ、飛躍的に棋力を高めてきました。

AI学者からみると、2人に対する印象は違うといいます。17年6月、藤井はデビューから無敗のまま「公式戦29連勝」を達成しました。当時、中学生の快挙以上に、飯田氏が驚いたことがありました。

「コンピューターの将棋ソフトの指し手のクオリティーをここまで取り入れてやっているとは…」。コンピューターの動作原理をよく理解し、すでにAIの本質をつかんでいると感じたそうです。

さらに藤井が「進化」を見せたのは、史上最年少でタイトルを獲得した昨年の棋聖戦5番勝負の第2局。AIが長時間かけて6億手まで検討すると、絶妙手と分かった「3一銀」。藤井は短時間で指しました。「AI超えの神の一手」に飯田氏は「早い段階で候補手から切り落としてしまうような手も、落とさずに読める深い感性を持っている。それをAIから会得している」。

豊島に対する印象は藤井とは違います。

14年、プロ棋士と将棋ソフトが5対5の団体戦で戦った第3回電王戦。当時七段だった豊島はただ1人、ソフトに勝利しました。

間近で観戦した飯田氏は「AIにトラップ(わな)をかけるわけではなく、自然な勝ち方をした。AIを負かすお手本みたいな対局で、AIの弱点を見抜いていた」。

藤井が豊島に苦戦する1つの理由として「豊島さんは、藤井さんがAIから会得した強さとは別の面の強さを会得しているのかもしれない」と推察します。

小学6年のとき、藤井は当時24歳の豊島と練習で対戦したことがあります。プロ棋士の視点として飯田氏は苦戦の理由を「豊島さんは、プロになり強くなる前の藤井さんの考え方を知っている。もしかしたらそういうのもあるのかもしれませんね」。

藤井は25日に始まる叡王戦5番勝負では、豊島へ挑戦することが決まっています。2人の2つのタイトル戦で最大12局を指す「真夏の12番勝負」は始まったばかりです。

さらに10日に行われた第34期竜王戦決勝トーナメント(決勝T)の初戦で山崎隆之八段(40)を94手で下し、初のベスト4に進出しました。豊島竜王への挑戦者を決める挑戦者決定3番勝負進出まであと1勝です。

竜王戦でも挑戦権を獲得すれば、例年10月開幕の7番勝負で豊島と対戦。豊島とは最大で「19番勝負」のトリプルマッチが実現します。

AIをつかった研究の先端を走る2人。ともに大切にしているのはAIを参考にしながら深く考えることです。豊島は藤井との対戦で「これからの棋士人生に生かせるような戦いにできたらと思います」と意気込みます。探求心の強い藤井も「2つのシリーズで豊島竜王と対戦できるので自分の成長につながる機会です。しっかり戦えるようにやっていきたいと思います」。2人は大舞台での対局を通じて「新境地」を目指しています。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)