第108回全国高等学校野球選手権大会は8月5日から、甲子園球場で開幕する。現在、その聖地を目指した熱戦が、全国で大詰めを迎えている。

夏の甲子園と言えば、大会歌「栄冠は君に輝く」(作詞・加賀大介、作曲・古関裕而)が有名である。

<歌詞>雲は湧き 光あふれて 天高く 純白の球(たま) 今日ぞ飛ぶ

実は同曲とともに、夏の甲子園で誰もが必ず耳にしている名曲がある。

開会式でファンファーレの後、「選手が入場します」のアナウンスで演奏が始まる行進曲である。

現在は「全国高等学校野球選手権大会 大会行進曲」と呼ばれるが、正式なタイトルは「全国中等学校優勝野球大会行進歌」。

大会が20回の節目を迎えた記念事業の一環として制作された。1935年(昭10)の第21回大会から、開会式の行進曲として使用されている。

校名が書かれたプラカードを先頭に、出場校が外野に一列に勢ぞろいし、同曲に合わせて内野に向かう一斉前進は感動的である。

作曲したのは山田耕筰氏。大正から昭和にかけ、日本の西洋音楽の基礎を築いた偉大な作曲家、指揮者である。

オペラや交響曲だけでなく、三木露風、北原白秋らと組んで「からたちの花」「この道」「待ちぼうけ」「砂山」「赤とんぼ」など、今も愛唱される歌曲や童謡を数多く作曲した。

正式な曲名が「全国中等学校優勝野球大会行進歌」であるように、実は同曲には歌詞がある。

作詞したのは詩人・富田砕花(とみた・さいか)氏である。大正時代から、民衆の生活や心を日常的な口語で表現する民衆詩派の詩人として活躍した。

歌詞は「百練競える この壮美」「今日ぞ晴れの日 起(た)て男児」「掲ぐるほこりに 旭日映えて 球史燦たり 大会旗」という勇壮な内容である。

第21回大会から行進曲として使用されているが、実は歌が披露されたことは、一部の地方大会を除き、1度もなかった。

理由は定かではないが、「行進歌」ではなく、「行進曲」として重宝がられたようである。

一方、大会歌「栄冠は君に輝く」は、高校野球ファンならずとも口ずさめるほどポピュラーである。

戦後の学制改革で、48年(昭23)から「全国中等学校優勝野球大会」は「全国高等学校野球選手権大会」と改称された。

同年が第30回大会の節目で、主催の朝日新聞社が新たな大会歌の歌詞を公募。入選した加賀氏の歌詞に、古関氏が曲をつけて完成したのが「栄冠は君に輝く」だった。

同曲は開会式の選手退場時や、フィナーレの閉会式で歌われる。夏の終わりを告げる曲でもある。

実は「栄冠は君に輝く」の歌詞を補作したのが、富田氏だった。同氏は大会歌公募の選考委員だった。

2番の「青春の賛歌をつづれ ああ 栄冠は君に輝く」は、富田氏の補作。加賀氏の原詞は「青春のほのほ(炎)をかざせ ああ…」だった。

3番の「緑濃き 棕櫚(しゅろ)の葉かざす」の部分も、富田氏の補作。棕櫚とはヤシ科の常緑高木で、花言葉は「勝利」。補作によって、さらに意味深い大会歌となった。

富田氏が作詞した「全国中等学校優勝野球大会行進歌」は、甲子園では1度も歌われてはいない。

その富田氏が補作した「栄冠は君に輝く」は、今夏も甲子園に響き渡ることだろう。

いつか、両方の歌詞を大観衆の甲子園で一緒に聴きたいものだ。【笹森文彦】