2日にスタートしたNHK連続テレビ小説「ブギウギ」(月~土曜午前8時)でヒロインを務める女優趣里(33)が満面の笑みで歌い、エネルギッシュに踊りまくる。ヒロインは「ブギの女王」と親しまれた笠置シヅ子がモデルの天真らんまんなキャラクター。俳優水谷豊(71)、キャンディーズの元メンバーで女優伊藤蘭(68)の1人娘は、作品を通して「私自身が歌からパワーをもらっている」という。天国の「恩師」にもドラマを届けたい。【取材=松浦隆司、佐々木隆史】

★自然体で撮影半年

人懐っこい笑顔の中にみずみずしい活力があふれている。撮影が始まって6カ月が過ぎた。

「すてきな共演者、スタッフが支えてくださっている。毎日、心がブギブギ、ズキズキ、ワクワクです」

長丁場の撮影だが、毎日のルーティンはあるのだろうか? その質問には、目をパチクリさせながら、大きな声で笑った。

「ないかも(笑い)。たまに聞かれるけど、私、特になくって。ガチガチに何時に入るとか、これをしてからとか、ルーティンは作らないようにしている。それが出来なかったからダメだと思いたくないから。その日の体調と会話しながら、その日の気分、流れに身を任せています」

飾らず快活。自然体だ。

演じるヒロイン花田鈴子は、「東京ブギウギ」などの名曲で知られ、「ブギの女王」と呼ばれた戦後の大スター、歌手笠置シヅ子(1914~85年)がモデル。大阪下町にある銭湯の看板娘から大スターに駆け上がっていく。戦後日本の疲弊した人々を、パワフルな歌声と、明るく激しいダンスで勇気と希望を与えた。

「笠置さんの舞台からはエネルギーがもらえる。プライベートや家族のことでいろんなことがあっても、前を向いて明るく生きていく。音楽を通して人生は楽しいというのを教えてくれる。戦後の日本を明るくしてくれたエネルギーは、今の時代にも通じる。私自身が歌からパワーをもらっている」

朝ドラヒロインのオーディションは3度目の挑戦で、32歳の募集年齢ぎりぎりだった。応募総数は2471人。ラストチャンスをつかんだ。偶然にも笠置が「東京ブギウギ」を歌った年齢と同じだった。

「あまりの驚きに、一瞬時が止まったような感覚がしました。あきらめなくてよかったと思いました」

★18年日本アカデミー新人俳優賞

11年にTBS系「3年B組金八先生ファイナル」で女優デビュー。18年、過眠症で感情をうまくコントロールできない女性を演じた主演映画「生きてるだけで、愛。」での振り切れた演技が評価され、日本アカデミー賞新人俳優賞に輝いた。今回のヒロインには幅広い年齢を演じる深みが求められる。

「本当にいろんなことが鈴子の周りでは起きていて、楽しいだけじゃないシーンもたくさんある。撮影を通し、子供の時代のエネルギーだけではなくて、大人になり、周囲への気づかいができるようになる鈴子の変化を感じている」

★10代留学バレエけが挫折

父は俳優の水谷豊、母は「年下の男の子」などヒット曲を連発し、約45年前に解散した伝説のアイドルグループ「キャンディーズ」の中央で歌っていたランちゃんこと伊藤蘭。演技派と言われるのは、両親から受け継いだ才能だけではない。4歳から始めたクラシックバレエで大きな挫折を味わったことが、演技に深みを加えた。

「あのときの経験は自分の中ではすごく大きなことだった。できれば経験したくなかった」

バレエでプロを目指していたが、高校生の時、英国に留学中に右足首を剥離骨折し、夢を断念した。帰国して失意の日々を送る中、救ってくれたのが演劇だった。舞台を見ていると、バレエをしていたときと同じ感覚がよみがえった。

「小さいとき、あまり人前に出ることが好きではなかった。バレエも最初、行きたくなかった。でも舞台に立つようになってから、こんなにすてきな空間があるんだ。楽しんでもらって、自分が表現できる。余計なことを考えず、その世界の中にいることができる」

若き日の挫折を経て、「これだ」と思えた女優の道を選んだ。笠置の人生は舞台上での明るさと相反するように、恋人と死別するなど悲しい出来事が多い。今作では鈴子が歌えなくなった時期も描かれる。

「演じる上で自身の挫折が重なるわけではないけど、苦しいシーンなどいろいろな場面で、あのときの気持ちを思い出す瞬間がある。バレエで経験したことが役作りに生きていたらいいな」

★急逝恩師から宿題

天国の「恩師」にもドラマを届けたい。13年に急逝した俳優で映画監督の塩屋俊さんが主宰した演技教室で鍛えられた。くじけそうになったとき、塩屋さんの「おまえは大丈夫だから。やったほうがいいよ」という言葉を信じて舞台を中心に演技力を磨いてきた。

「演技のおもしろさ、楽しさは塩屋さんから教わった。夢だった劇作家岩松了さんの舞台に出演できた時など、節目、節目で塩屋さんに“報告”している感覚。(ブギウギを)みてほしかったと思うけどきっとみてくれていると思います」

ヒロイン決定以降はボイストレーニングの先生と二人三脚で呼吸や発声の仕方を細かく練習した。主題歌「ハッピー☆ブギ」は「東京ブギウギ」を作曲した服部良一さんの孫、服部隆之氏が作詞作曲。当初は趣里が歌唱する予定はなかったが、EGO-WRAPPIN’の中納良恵とシンガー・ソングライターのさかいゆうに趣里を加えた3人で担当することになった。

「まさかって半信半疑でした。中納さんやさかいさんといっしょに歌うなんて。服部先生がすごくいい曲を作ってくださった。ストーリーに沿った歌詞になっている。朝、みなさんがこの歌を聴いて元気になってくれたらいいな」

服部氏は「(趣里は)年明けから歌のレッスンを始めてもらって、どんどん歌がうまくなった。ぜひ、主題歌を歌ってもらいたくなった」と説明し「女優から歌手に成長していく姿がヒロイン像そのものだった」と笠置の面影を重ねた。

朝ドラのヒロインの夢はかなったが、役者としての「宿題」がある。塩屋さんからは「最終的には海外のほうがうける」と言われていた。

「それはどういうことですか? って聞けばよかった。いつかはと思いながら、聞き忘れてしまった。なんだか、塩屋さんに会いたくなっちゃいますね」

いまは、歌と踊りに向き合った波瀾(はらん)万丈な人生を歩んだ「鈴子」を演じきることに専念する。撮影が終わったとき、「宿題」の答えが見つかるかもしれない。

▼「ブギウギ」の福岡利武制作統括

歌って、踊って、笑って、泣いて、怒って、なんとも言えない気持ちになって、ヒロイン、鈴子は大忙しです。鈴子を演じる趣里さんは、歌の稽古、踊りの稽古、大阪ことばの稽古、鈴子以上に大忙しです。そんな趣里さんは、現場では明るく笑顔でスタッフ、キャストのみなさんと気さくに接して、そして、お芝居では魅力的に演じ…。本当に、すごいことだと思います。すてきなことだと思います。頭が下がる思いです。

◆趣里(しゅり)

1990年(平2)9月21日生まれ、東京都出身。11年デビュー。俳優水谷豊、伊藤蘭夫妻の長女。朝ドラ「とと姉ちゃん」(16年)では社員役として出演。昨年は主演作を含むドラマ4本、映画3本に出演。11月25日には主演映画「ほかげ」の公開が控える。血液型O。

◆ブギウギ

大正の終わり頃、花田鈴子(趣里)は、父梅吉(柳葉敏郎)、母ツヤ(水川あさみ)の愛情を受け、大阪の下町にある銭湯の看板娘として育つ。やがて歌の才能を発揮し始め、作曲家・羽鳥善一(草なぎ剛)の指導でスウィングの女王と呼ばれるスター歌手となっていく。

※「草なぎ」の「なぎ」は弓ヘンに前の旧字体その下に刀