23年2月に、同年のNHK連続テレビ小説「ブギウギ」の出演と併せて俳優デビューを発表して2年…黒崎煌代(23)の季節がやってきた。今年、出演した4本の映画が公開。しかも、うち3本が今月に3週連続で公開となる。中でも10日公開の初主演映画「見はらし世代」は、カンヌ映画祭の独立部門・監督週間に出品された。長編初監督作で、同部門に日本人最年少26歳で出品を果たした友人の団塚唯我監督(27)と、映画の大海にこぎ出した現在地に迫った。【村上幸将】
★初“生遠藤さん”の顔が
とにかく、しゃべらない…。でも、瞳を見ているだけで、体の奥底から込み上げてくる、やるせなさ、悲しさ、疑問…さまざまな感情が伝わってくる。「見はらし世代」で演じた高野蓮の家族は、10年前の家族旅行の最中、建築コンペの最終選考に残った父が母の懇願を振り切り、とんぼ返りしたことで壊れてしまう。その後、母は亡くなり、父とは疎遠になってしまう。
「苦しいというか、モヤモヤしながらやっていました。この映画で私、全然しゃべらないですよね」
成長し、花屋で配送運転手として働く蓮は、世界的なランドスケープデザイナーになった父が回顧展のため7年ぶりに帰国したと知る。父へのお祝いのコチョウランを届けに行って再会。父の投げかけに無言を続けた中「服、ヨレてるぞ」「金はあるのか?」と聞かれた途端「まじ、分かってねぇな」「分かってないわ!」と一喝。花を投げ付けると、車に戻って泣きじゃくる。父の初を演じた遠藤憲一(64)とは、その場面が初対面だった。
「初めて、お芝居をした日だったんです。(父子が)久しぶりに会ったシーンで、顔を見て怖い人だったら、どうしようと思っていた。向こうから迫ってくる“初・生遠藤さん”の顔が面白いから、笑ってしまって2、3回、NGを出した。思いきり、やらせてもらって。メチャクチャ優しい方で良かったです」
★22年さよなら ほやマン
役作り…もっと言えば作品作りは、団塚監督と出会った22年夏から始まっていた。俳優として初めて現場に立った原点と位置付ける映画「さよなら ほやマン」(庄司輝秋監督)の現場に、団塚監督はメーキング映像の製作で入っていた。
「蓮という人物は実は監督の分身という要素もある。プライベートでは友達なので、監督としゃべることが準備になった。準備に費やした期間は『ほやマン』からの時間とも言えます」
努めて役作りしなかった裏には明確な理由がある。
「現場や、仲が良い友達として一緒にいる黒崎を見て、自分を投影した蓮を投げてくれたから変に違う場所に行っちゃったら、オファーした時の私じゃなくなる。良くないかなと思い、用意しすぎず臨みました」
撮影までとにかく考え、準備を積み重ねる。姉を演じた木竜麻生(31)とは、NHKドラマ「地震のあとで」に、話数こそ違えどともに出演しており、撮影までに交流を深めた。
「『地震のあとで』を撮った時に仲良くなって。ご飯を食べに行ったり、10カ月くらいかけて、プライベートでの関係を築いていけた上の姉弟役でした」
撮影に入ると準備したものを捨て去り、感じたものを表現する。最大限に発揮されたのが、再会した父の投げかけに答えず、横を向いて笑いを浮かべた末に怒鳴った、あの1シーンだ。
「天才じゃないので、準備はするだけします。準備したものは当日、何も考えずにやります。横を向いたり叫んだりとか、台本には書かれていない。叫んだら現場がピリッとした。現場が芝居でピリつくことがあるんだと初めて知り、面白いなぁと思って」
★父の影響で映画好きに
所属のレプロエンタテインメントが22年に行った、役者特化の「主役オーディション」に、演技未経験ながら大学1年で応募したのが全ての始まりだった。
「映画が好きでいっぱい見ていたので、役者への憧れはあったんですけど、なれるものだと思っていなかったので、違う方向で考えて、映画関係の仕事に就こうと思っていました。コロナ禍で周りが就活しだしているし、これが就活代わりだと。運試し程度に受けたら、ご縁があって」
映画を好きになったのは、父の影響だった。
「父が米国で映画、映像全般の仕事をしていて。小学生から映画を見させられて、中学生くらいから自分で見るようになって。高校生になって、自分で簡易的な映画を撮ってみました」
カンヌ映画祭には、憧れの米俳優レオナルド・ディカプリオ(50)エマ・ストーン(36)も参加。トム・クルーズ(63)と遭遇した時には一瞬、テンションが上がったが、それでいいのかと自戒した。
「バカンスに来ているわけじゃない。大きくくくれば私も彼らと一緒だと感じた。映画祭は日本と違い、スター監督をどれだけ輩出できる場か、ということを行って初めて知りました」
4月に「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」(大九明子監督)が公開。今月は3日に「アフター・ザ・クエイク」(井上剛監督)、10日に「見はらし世代」、17日には「ストロベリームーン 余命半年の恋」(酒井麻衣監督)と出演作の公開が相次ぐ。さらに発表前だが、世界的な監督の新作にも声がかかっている。デビューから3年…一気に駆け上がった一方で今後、どう進化していくべきか熟考している。
★米国映画的な動きを日本で
「『さよなら ほやマン』『ブギウギ』は未経験、ワクワク感、純粋な気持ちからくる動の芝居をしていた。それを実力と言うなら、運とも言える。あれが評価されているとなると、ずっと初々しいままではいられないので、初々しさを消さずに、どう波及していけるかを探っている段階。その1つが、あえて何もしないことをテーマに取り組んだ『見はらし世代』。若々しさに頼ってきた私が、別のことをしたことが、どう評価されるか気になります」
11月6日に東京・PARCO劇場で開幕する宮藤官九郎作・演出で阿部サダヲ、松たか子らが出演の「大パルコ人<5>オカタイロックオペラ『雨の傍聴席、おんなは裸足…』」にも出演する。今後、どう生きていきたいか? と聞くと、1つの目標を口にした。
「米国映画で育ってきたので、米国映画的な動きを日本映画でやりたい。いろいろなプロデューサーに言っても『無理だよ』『言語と文化の壁がある』とか言われる。アンチが多いですけど…できるって、思うんですよ。向こうの面白さを日本語で、日本人がやったら、また何か1つ、新たな面白いジャンルができると思う23歳。全然、間違いかも知れませんが」
本名である煌代に込められた「煌めく時代を作ってほしい」という思い…その足掛かりを、つかみつつあることは自分が一番、分かっている。
▼「見はらし世代」の団塚唯我監督(27)
黒崎君は元々、友人。明るい役が多かったんですけど、2人でしゃべっていると真面目な時もあって。そういうところもすてきだと思ったので、ちょっと違う黒崎君が見えたらな、と思って一緒にやりたいなと思いました。年齢が近いので考えていることも近いし、顔も似ているらしいので(主演も)いいかなと(笑い)。
◆黒崎煌代(くろさき・こうだい)
2002年(平14)4月19日、兵庫県生まれ。「主役オーディション」では、芸能活動や芝居経験が全くないながらも個性と芝居力を発揮し、応募約5000人の中から合格。「ブギウギ」でも、オーディションで300人以上の応募の中から、趣里(35)演じるヒロイン花田鈴子の弟六郎役をつかみ取った。趣味は映画鑑賞と、映画を見て脚本を書き起こすこと。特技はドッジボールとスキー。174センチ。








