月組新トップ娘役の海乃美月は、11年目。2年先輩の新トップ月城かなとから相手娘役に迎えられた。現在、兵庫・宝塚大劇場で、本拠地お披露目「今夜、ロマンス劇場で」「FULL SWING!」に臨んでいる。娘役として自立した上で、経験を生かして「男役にしっかり寄り添う娘役として最後の日まで…」と誓い、新コンビとしてスタートした。宝塚は31日まで、東京宝塚劇場は2月25日~3月27日。

新トップ月城かなとに相手娘役に迎えられ、決意を語る海乃美月
新トップ月城かなとに相手娘役に迎えられ、決意を語る海乃美月

男役10年ならぬ“娘役10年”を過ぎての就任。海乃も素直に「とても驚きました」と言う。就任前の「ダル・レークの恋」でも月城とコンビを組んでいた。

「(月城は)以前から舞台人としても尊敬していましたし、ご一緒させていただけることが素晴らしいと思いました。同時に月組を引っ張っていくということで、とてもプレッシャーもあり、不安でしたが、月城さんがいらっしゃるなら、私も頑張って付いていこうと思いました」

芝居、歌、ダンスだけではない。美しいスカートさばきまで、娘役として積み上げたスキルがある。研2で新人公演主要キャストに抜てきされ、以後は新人以外でも宝塚バウホール、外部劇場とヒロイン経験は豊富。だが、トップ娘役までの道のりは長かった。

「下級生の頃は、いただいたお役、自分の課題に挑戦していました。学年を重ねるにつれ、組全体でどうしたら? 男役さんに対してどう存在したら? と客観的に考えられるようになり…。時間がかかってしまったんですけど、10年いたからこそ気づいて作品に取り組めたのかと思います」

経験を技量に替え「あまり得意ではないことでも、絶対にあきらめない」強さも会得した。今作芝居は、綾瀬はるかと坂口健太郎による映画「今夜、ロマンス劇場で」(18年)の舞台化。綾瀬が演じたモノクロ映画から飛び出した王女・美雪を演じている。

「(映画は)とてもロマンチックな作品ですし、綾瀬さんの美雪像を参考にしながら、私なりの美雪もしっかりと作りたいと思っていました。舞台なので動き、感情の振り幅など、大きく見せないと伝わらない。ディズニー映画で言いますと、魔法にかけられたような少しオーバーな演技の仕方も取り入れながら」

自分なりのヒロイン像を模索。「自分の意思、夢ははっきりしつつ、素直になれない部分は自分と重なる」と感じた。役柄への冷静なアプローチは経験豊富ゆえ。すでに昨年、博多座「川霧の橋」でトップ娘役として舞台出演。フィナーレで自らの立場を実感した。

「初めてあの(トップ娘役)羽根を背負わせていただき、階段をおりた時、温かい拍手をいただいたお客様への感謝の気持ちを何より強く感じました」

娘役としての立ち位置も再確認した。

「月組の娘役はりりしい、かっこいいとイメージされるファンの方も多いと思いますが、やっぱり男役さんあっての宝塚。りりしさの中に、宝塚の娘役としてしっかりと男役さんに寄り添えるよう、最後の日まで、突き詰めていきたい」

キャリアから「大人っぽい、クラシックなイメージを持っていただくことが多い」と自覚。そのイメージを膨らませるつもりだが、華やかな舞台の世界において、最も肝要なのが「心」と強く意識する。

「お衣装も、セットもすばらしいですし、宝塚は“見た目”も大切だとは思いますが、そこに至るまでには、相手を思う気持ち、その思いを受け取る気持ちがある。心が動いてこそだと思うので、どの瞬間も大事にしていきたいです」

月城からコンビのあり方について言葉をもらった。

「作品にしっかり向き合って取り組む。自分1人だけではなく、2人がいいから作品、組が良くなるのが大事だよね、と。2人で支え合い、寄り添い、作品に取り組んでいきたい」

月城の豊かな想像力にも感服。自身が気づけなかったこと、場面の意味を理解し、導いてくれる。「私にとっても挑戦の年。新しくなった月組を、皆でどう作り上げていくか。楽しみでもあり、相当なエネルギーを持たねばと思っています」。月城に寄り添い、走る2022年に胸を躍らせている。【村上久美子】

月組新トップ娘役に就き、22年を「挑戦の年」と言う海乃美月
月組新トップ娘役に就き、22年を「挑戦の年」と言う海乃美月

<ショーは全編ジャズに挑戦>

全編ジャズがテーマのショーも、ここ最近「パワフル」「エネルギッシュ」な作風が多かった月組にとっての挑戦でもある。「ジャズは自由だと、(演出の)先生もおっしゃるので、同じ曲を聴きながらも、とるリズム、感じ方は自由。それをひとつの作品として、皆で話し合いながらまとめて」。新生・月組は千秋楽まで進化を続けそうだ。

◆ミュージカル・キネマ「今夜、ロマンス劇場で」(脚本・演出=小柳奈穂子) ヒット映画(18年)を舞台化したファンタジー作。映画館「ロマンス劇場」を舞台に奇跡的な出会いを描く。映画監督を目指す助監督の牧野健司(月城かなと)は、現実世界に現れたモノクロ映画のヒロイン美雪(海乃美月)に驚きつつも、ひかれあっていく。

◆ジャズ・オマージュ「FULL SWING!」(作・演出=三木章雄) 月城、海乃コンビ誕生を祝う豪華な幕開けからバラエティーに富んだショー。

☆海乃美月(うみの・みつき)5月18日、富山県氷見市生まれ。11年入団。歌、ダンス、芝居と3拍子そろい注目。14年新人公演初ヒロイン以降、宝塚バウホール、外部劇場でもヒロイン経験を重ね、月城かなとが主演した昨年「ダル・レークの恋」でも東上公演ヒロイン。身長164センチ。愛称「うみ」「くらげ」。