俳優仲代達矢(84)が、集大成となる無名塾公演「肝っ玉おっ母と子供たち」を石川・七尾市の能登演劇堂で、11月12日までロングラン上演している。

 ドイツの劇作家ブレヒトの反戦劇で、88年以来29年ぶりの「女役」で、肝っ玉おっ母ことアンナを演じている。冒頭、舞台奥の扉が開き、野外に火と煙が上がる中、幌(ほろ)車に乗った仲代と子供たちが登場する。演劇堂ならではの借景を生かした幕開きだ。出ずっぱりでせりふ量も多く、2曲歌う。「せりふ覚えが悪くなったので、元日から読み合わせし、せりふを書いて体の中に入れるようにした」。

 「肝っ玉-」は軍隊に付き従う女商人アンナが、3人の子供を戦争で失いながらも、軍隊から離れられない、たくましくも哀れな姿を描く。「戦争反対を叫ぶ人は出ないけれど、戦争のむごさが分かる。29年前よりも、今の方がやる意義がある。僕は最後の戦中派だから」。

 女役だが「意識しない。男勝りの女性だし」。ここ数年、映画や舞台ではひげを生やした役が多く、日常でもひげを伸ばしていたが、今回はばっさりそった。「女役だからね。1回にそると風邪をひいてしまうので、何回かに分けてそった」。

 能登公演後、九州を巡演。85歳の来年3月28日からは東京・世田谷パブリックシアターで公演を行う。「重い幌車を引くので、腰の負担も大きい。ハリを打ってもらったら打つ箇所が多くて『ハリが足りない』と言われた」。86歳となる19年秋にモリエール作「タルチュフ」に主演予定。「師匠千田是也が演じた作品で、いつかやろうと思っていた。舞台俳優はアスリートと同じで、体をしっかりしないとね」と先を見据えた。【林尚之】

 ◆仲代達矢(なかだい・たつや)1932年(昭7)12月13日、東京都生まれ。俳優座養成所を経て、55年に俳優座入団。79年に退団。75年から妻の演出家隆巴さんと無名塾を主宰。代表作は舞台「リチャード三世」「マクベス」、映画「人間の條件」「影武者」「乱」、ドラマはNHK大河「新・平家物語」など。07年文化功労者、15年文化勲章。