22日公開の映画「翔んで埼玉」の挿入歌「なぜか埼玉」を歌う歌手さいたまんぞう(70)が、古希でのブレークを狙っている。

「なぜか-」は♪なぜか知ら~ねど~ 夜の埼玉は~ と、メロウな音楽に乗ってナンセンスな歌詞を淡々と歌う。「どこかしこも」「右も左も」「西も東も」「北も南も」と振って「みんな埼玉」「すべて埼玉」と受ける。01年に合併で浦和市、大宮市、与野市が、05年には岩槻市も加わった、埼玉県の県庁所在地「さいたま市」の現状を予言していたかのような歌だ(笑い)。

二階堂ふみ(24)Gackt(40)主演の「翔んで-」は、東京に冷遇される埼玉の姿を面白おかしく描き、爆笑&失笑のコメディー映画。80年にタモリ(73)の深夜ラジオ、ニッポン放送「オールナイトニッポン」から火が付いてヒットした「なぜか-」が、劇中で印象的に流れている。

元々はGSのバンドボーイから始めて、ホストクラブに入っているバンドでドラムをたたいていた。ドラムの先輩が自主制作で埼玉のご当地ソング「なぜか-」を発表する時に、歌い手として白羽の矢が立った。

「演歌調の曲を『こぶしをつけずに歌う』という条件で頼まれました。歌を勉強している人や、歌手も目指している人はダメだということでしたと。それまでは、人前で歌なんて歌ったことがありませんでした」

80年2月26日、タモリが「オールナイト-」の中で「変な面白い曲がある」と紹介したことで火が付いた。全国ネットの同番組で、売れっ子タモリの一押しとあってブームが押し寄せた。翌81年4月5日には、フォーライフ・レコードからメジャー発売。12万枚のスマッシュヒットとなった。

「努力もしてないし、お金もかけてない。サザンオールスターズの桑田佳祐さんが、電話で『タモさん、誰が仕掛けているの』と尋ねたという話を聞いたことがあります」

「ダ埼玉」とからかわれていた、地元埼玉の反応は微妙だった。

「半分、半分の反応でした。曲がはやって、若い女性が『埼玉から引っ越したい』と言い出したという記事が、新聞に載ったことがありました。お笑い心をもっている人は『埼玉の詩を作ってくれてありがとう』と言ってくれたんですが…」

曲がブームになって、さぞや大もうけしただろうと思われる。

「自費出版した先輩が全部、フォーライフに売り渡しました。僕には何の相談もありませんでした」

フォーライフレコードは“フォーク界の巨人”である小室等、吉田拓郎、井上陽水、泉谷しげるが設立したレコード会社。演歌の営業のノウハウがまるでなかった。

「曲がブームになっているのに、地方営業の仕事は1本もなし。『オールナイト-』は全国ネットの人気番組でしたから、北は北海道から南は沖縄まで回れたはずなんですが。フォーライフは、僕の家の電話番号を知りませんでした。普通だったらマンションの部屋の1つや2つは残ってたかもしれないんですがね(笑い)」

待遇はフォーライフの宣伝部所属ということで、月に10万円の給料。

「他の歌手と一緒にステージとかに出たことはありませんでした。話題にはなったけど、タレントとしては忙しくならなかった。誰も、その姿を見たことがないから『芸能界のツチノコ』って言われてました(笑い)。一度、覆面歌手の正体が分かったということでテレビ、ラジオに出まくりの期間がありましたけど、2カ月で終わりました」(続く)

◆さいたまんぞう 1948年(昭23)12月9日、岡山県美咲町生まれ。津山基督教図書館高卒業後、上京。グループサウンズのバンドボーイ、俳優浜畑賢吉の付き人を務める。80年、「なぜか埼玉」がヒットし、さいたまんぞうを芸名に。その後、司会、リポーターとして活動。中学、高校時代は野球部。独身。174センチ、68キロ。血液型O。