オダギリジョー(43)が9日、長編初監督を務める映画「ある船頭の話」(13日公開)が第76回ベネチア映画祭「ヴェニス・デイズ」部門に出品され、東京・丸の内の日本外国特派員協会で会見した。

同作は、革新性や探求心など作家性を重視する「ヴェニス・デイズ」部門に選出された。オダギリ監督はイタリアで開催された同映画祭に出席し、昨日8日に帰国。現地の反応について「自分が想像していた以上にとても温かい拍手をいただいて、幸せでした」と振り返った。あまりのリアクションの良さに居心地の悪さを感じたといい「そんな拍手いただくような映画じゃないんですよ、と思ってしまった」と苦笑した。

元々は監督志望。踏み出すことに時間を要したことについて「俳優の立場を利用する形で、甘えて映画を撮るのはいいことではないと思っていた。他の映画監督からしたら面白くない話だろうし、僕自身本気で映画に向かっても『俳優オダギリジョー』が作ったというフィルターが入ってしまう」。また、健康診断の結果が良好でなかったことが、1つのきっかけになったと明かし「大げさな話として、残された時間に何をするべきかと考えた時、映画を撮りたかったのに変なプライドや、自分でやりたい気持ちを閉じ込めていた」と振り返った。

映画は明治期の近代化を背景に、山間部に住む船頭の人生を描く。「発展の影で失われているものがテーマ」といい、劇中の緩やかな間については「僕らが失ってしまった時間の感覚、時間の過ごし方があったと思うし、今のこの時間の豊かさに気付くかも知れないと期待して作りました」と話した。主演は柄本明、共演に橋爪功、草笛光子ら大先輩が名を連ねる。俳優陣の演技に指示を出すことはしなかったといい「生意気かなと思って。信頼している方を呼んでいるので、『そのセリフのニュアンスは違っています』なんて、やぼですよね」と笑った。

今回は監督に徹したが、今後監督作に俳優として出演するかと聞かれると、「自分の作りたいものを作ることに集中したら俳優をやっている暇ないと思っていたので、出なかったし、これからも出ないと思う」と明言。一方で「セリフを覚えることが面倒くさくて、自分の監督作だろうとそこが嫌で、絶対に出たくなかったんですよ」とも明かし、笑いを誘った。