作曲家・古関裕而氏の代表曲の1つが、夏の甲子園の大会歌「栄冠は君に輝く」です。今夏は新型コロナウイルスの影響で中止ですが、各都道府県での大会は開催予定で、同曲が流れることを期待します。古関氏は大作曲家の山田耕筰氏を師と仰いでいました。NHK朝の連続テレビ小説「エール」で、故志村けんさんが演じた役のモデルです。この師弟とも言える2人の曲が、夏の甲子園で毎年流れていることをご存じでしょうか。【笹森文彦】

<歌詞>雲はわき 光あふれて

天たかく 純白の球(た ま)きょうぞ飛ぶ…

「栄冠は君に輝く」を聴けば、誰もが真夏の到来と甲子園を思い浮かべる。古関氏の代表曲である。実はこの曲とともに、夏の甲子園で誰もが必ず耳にしている名行進曲がある。

開会式を思い出してほしい。ファンファーレの後、「選手が入場します」のアナウンスで演奏が始まる行進曲。タイトルは「全国中等学校優勝野球大会行進歌」。1935年(昭10)の第21回大会から、開会式の行進曲として使用されている。出場校が外野に一列に勢ぞろいし、曲に合わせて内野に向かう一斉前進は感動的である。

作曲したのは山田耕筰氏。古関氏があこがれた偉大な作曲家、指揮者である。大正から昭和にかけ、日本の西洋音楽の基礎を築いた。オペラや交響曲だけでなく、三木露風、北原白秋らと組んで「からたちの花」「この道」「待ちぼうけ」「砂山」「赤とんぼ」など、今も愛唱される数多くの歌曲や童謡を作曲した。

古関氏はプロの作曲家を目指して、山田氏の楽譜をほとんどすべて暗記し、著書「作曲法」を読んで勉強した。自伝「鐘よ鳴り響け」(集英社文庫)に「山田先生の音楽に傾倒していった私の中には、先生と同じ血が流れているのではないかとひそかに思ってみたりした」とつづっている。

NHKの朝の連続テレビ小説「エール」では、志村けんさんが演じた小山田耕三として登場。ドラマにもあったように、古関氏は山田氏の推薦もあって日本コロムビアの専属作曲家になれたのである。

戦後の学制改革で、48年(昭23)から「全国高等学校野球選手権大会」と改称された。同年が第30回大会の節目で、主催の朝日新聞社が新たな大会歌の歌詞を公募。古関氏が作曲を担当して完成したのが「栄冠は君に輝く」である。

「栄冠は君に輝く」は大会歌として、開会式の選手退場時と閉会式で流れる。閉会式では「大会歌に合わせ、優勝チーム、準優勝チームが場内を1周します。スタンドの皆様も一緒にお歌いください」とアナウンスされる。まさにフィナーレであり、夏の終わりをも告げる曲である。

夏の甲子園は毎年、いわば師弟である山田氏の「大会行進歌」で始まり、古関氏の「栄冠は君に輝く」で幕を下ろして来た。新型コロナウイルスの影響で、今夏の甲子園は中止となったが、都道府県独自の大会は開催される。2人の名曲が例年同様、選手の胸に感動と思い出を刻んでくれることを心より願う。

○…「全国中等学校優勝野球大会行進歌」は、行進歌とあるように歌詞がある。庶民派詩人と言われた富田砕花氏が作詞した。完成時には日本コロムビア専属歌手の内本実が歌唱した。もっとも開会式では演奏だけで、過去1度も甲子園で歌唱されたことはない。

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「全国中等学校優勝野球大会行進歌」

   作詞 富田砕花

   作曲 山田耕筰

百練競える この壮美

羽搏(はばた)け 若鷹 雲裂きて

溢るゝ感激 迸(ほとば し)る意気

今日ぞ晴れの日 起(た )て男児

※掲ぐるほこりに 旭日 映えて

球史燦(さん)たり 大 会旗

 

烈々火燃ゆる この闘志 撩乱 華咲け 技冴えて

溢るゝ感激 迸る意気

今日ぞ晴れの日 往け男 児

※以下同じ

 

優勝確たる この飛躍

毅(つよ)かれ 若獅子 を浴びて

溢るゝ感激 迸る意気

今日ぞ晴れの日 捷(か )て男児

※以下同じ

 

「栄冠は君に輝く」

   作詞 加賀大介

   作曲 古関裕而

雲はわき 光あふれて

天たかく 純白の球(た ま)きょうぞ飛ぶ

若人よ いざ 

まなじりは 歓呼にこた え

いさぎよし ほほえむ希 望

ああ 栄冠は 君に輝く

 

風をうち 大地をけりて

悔ゆるなき 白熱の力ぞ 技ぞ

若人よ いざ

一球に 一打にかけて

青春の 讃歌をつづれ

ああ 栄冠は 君に輝く

 

空をきる 球のいのちに

かようもの 美しくにお える健康

若人よ いざ

みどり濃き しゅろの葉 かざす

感激を まぶたにえがけ

ああ 栄冠は 君に輝く