映画「無頼」シリーズや、刑事ドラマ「西部警察」などで知られる俳優渡哲也(わたり・てつや)さん(本名・渡瀬道彦)が10日午後6時30分、肺炎のため亡くなったことが分かった。78歳だった。

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非の打ちどころのない整った顔に、はにかんだ表情が似合う、ほかにないキャラクターだった。

スケールの大きさが魅力だった石原裕次郎さんとは対照的に、趣味はたき火とソフトクリーム。スターらしからぬ一面が二枚目ながらいぶし銀という独特の立ち位置を生み出した。角刈りにサングラスも、ならではのスタイルとなった。

所属の日活が71年にロマンポルノ路線にかじを切ったとき、トップスターだったこの人は各社から引く手あまただった。当時29歳。俳優としての将来を考えるなら、別の道もあっただろうが、日活の先輩として慕い続けた裕次郎さんを追って石原プロに入った。

日活で培ったキャラクターは「西部警察」や「大都会」などのドラマでそのまま生かされた。弟の渡瀬恒彦は演技派として知られたが、対照的に存在感で勝負する文字どおりのスター俳優だった。

責任感は人一倍強く、石原プロ社長になって最初の制作作品「ゴリラ・警視庁捜査第8班」では、腓腹(ひふく)筋断裂の重傷を負いながら、痛みをこらえて収録を続けた。

50歳を目前にした91年に直腸がんの手術を受け、オストメイト(人工肛門使用者)であることを明らかにしたが、会見に臨んだ当時の小林正彦・石原プロ専務が「美意識の強い渡にとっては、つらい決断だった」と涙ながらに話し、その心情を代弁した。

これをきっかけに一段と「渋さ」が前に出るようになり、「秀吉」(96年)の織田信長役、「義経」(05年)の平清盛役など、NHK大河ドラマで誰にもまねのできない存在感を示した。

胸には思いや熱さを秘めながら、決して人に悟らせないところがこの人の美学であり、魅力だったように思う。【相原斎】