英国の世界的ロックバンド、ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツさんが80歳で死去した。25日までに現地メディアが伝えた。ボーカルのミック・ジャガーは25日、ツイッターを更新し、笑顔でドラムに向かうワッツ氏の写真を公開。ギターのキース・リチャーズは、ワッツ氏のドラムに「CLOSED」の札が掛けられた写真をアップした。

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ファンは皆、親しみと敬意を込めて「チャーリー」と呼んだ。ロック志向で悪童のようなミック・ジャガーとキース・リチャーズが立つ背後で、髪を整えダンディーなたたずまいでストイックにドラムをたたくチャーリーは、間違いなくストーンズの屋台骨だった。

ドラムを志す者にとっては「近くて遠い存在」と言えるかもしれない。左手首を返してスティックを握るレギュラーグリップに、スネアドラムをたたく時に右手のハイハットを止める独特のオールドスタイルは、世界中のドラマーが一度はマネしただろう。一見シンプルで堅実なプレイスタイルで、「自分にもできそう」「マネしたい」と思った人は多かったはずだ。

だが実際は、聞けば聞くほど、たたけばたたくほど、チャーリーのドラミングの奥深さに気付くことになる。人間臭いながらダイナミックなビート、スネアドラムとハイハットのクリアで独特の音色。デビュー前からジャズがルーツで、自ら「ジャズドラマー」と称し、ジャズバンドを率いてアルバムも発売。ストーンズでも時にロックと一定の距離を置いたドラミングを披露した。ブルースやラテンのテイストなどを加えてストーンズ楽曲の幅を広げ、その複雑なリズムを涼しい顔で演奏。後年にサポートで加わった百戦錬磨のスタジオベーシスト、ダリル・ジョーンズの音も包み込み、常に“古くささ”は感じさせなかった。

激情家の一面も伝えられる。ストーンズが名声を築いた80年代、酒に酔ったミックがチャーリーのことを「俺のドラマーはどこだ」と探したと聞き及ぶと、ミックの元へ一直線。ドラムで鍛えた腕っぷしで一撃でミックをダウンさせ「二度と『俺のドラマー』と呼ぶな、『俺のシンガー』よ」と言葉を発したのは語り草となっている。

気分屋のキースも、一貫してチャーリーの人間性、音楽性は評価し続けた。「ストーンズはミックか、キースか」との趣旨の質問にはいつも、ストーンズの楽曲の多くがチャーリーの音で終わることを示しながら、「ストーンズはチャーリーだ」と答えていたという。キースが今回の訃報を受け、チャーリーのドラムセットに「CLOSED」の看板を下げた写真をSNSにアップしたのは、示唆的な一面も感じさせる。

ストーンズにチャーリーがいない喪失感は計り知れない。ただ60年近く現役として、日本公演を含むワールドツアーを続け、世界各国に生のストーンズを届け続けた功績もまた、唯一無二。チャーリーは天国でもきっと「俺はジャズドラマー」と言い続けるのかもしれないが、生涯、「世界一のロックバンドのドラマー」として“転がり続けた”人生だった。