80年代の終盤から90年代にかけて、英国ではダイアナ妃を巡る報道が過熱していた。当時、海外ゴシップのコーナーを担当していたので、週1、2回の割合でロンドン在住の通信員から現地の様子を聞いていた。
この頃、ロンドンのタブロイド紙がダイアナ妃の次に標的にしていたのが、実は米ポップスターのマイケル・ジャクソンだった。自宅でキリンを飼っていたことや度重なる整形手術が「奇行」として報じられた。略称「Jacko」がしばしばタブロイド紙の1面トップに踊っていた。
「Michael マイケル」(6月12日公開)は、ジャクソン・ファミリーの三男ジャーメインの息子、つまりマイケルの甥っ子に当たるジャファー・ジャクソンが「叔父さん」になりきって主演。「トレーニングデイ」のアントワン・フークア監督がメガホンを取り、ゴシップにも事欠かなかったキング・オブ・ポップの生身の姿に迫っている。
映画は、芸で身を立てろとスパルタ的にムチを振るう父ジョセフに押され、「ジャクソン5」の真ん中に立った幼き日に始まる。やがて唯一無二の才能に開花。希代のプロデューサー、クインシー・ジョーンズとの出会い、父との確執、そしてソロアルバム「スリラー」の世界的ヒット…。登り詰めていく若きマイケルにスポットが当たる。
フークア監督の踏み込んだ視点の先に、「奇行」の裏にあったナイーブな人物像が浮かび上がる。心のよりどころだった母親との関係、そして自身の「マイケル王国」を築くに当たっての人を見る確かな目、小児病棟の子どもたちとの触れ合い…。才能だけではなく、優しさと芯の強さが伝わってくる。
「ビリー・ジーン」のミュージックビデオは当たり前のように見ていたが、実は当時のMTVには「黒人ミュージシャンの作品は放映しない」というおきてがあったそうで、劇中のオンエアを巡る逸話には、四半世紀の隔世を改めて実感させられた。
「今夜はビート・イット」のミュージックビデオでは、マイケルの発案で対立関係にあった二組のストリート・ギャングが収録現場に呼ばれる。ダンスに自信ありのクセの強い面々がマイケル本人の登場で目が点になり、やがてその脚さばきにリスペクトの念が。MTVで何度も見たあのキレと自然なうねりの裏事情にグッとくる。
そして、「モータウン25周年記念コンサート」でのムーンウオーク初披露! 胸がアツくなるポイント満載の作品だ。
名優コールマン・ドミンゴが父ジョセフのアクの強さを巧みに演じ、マイケルの純粋さと見事なコントラストを成している。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




