映画「ドライブ・マイ・カー」が9日、米ゴールデングローブ賞非英語映画賞を邦画として62年ぶりに受賞するなど、世界を席巻している。その快挙から5日後の14日、濱口竜介監督(43)が、美術家の奈良美智氏(62)と都内で対談を行った。

2人は、学生を中心に集まった観客からの質問にも応じた。濱口監督は「映画監督になるために身に着けるべきことや必要なものは?」という質問に「職業的な監督になる、ということをおっしゃっているのか分かりませんけど、映画監督は、カメラを回せばなれます」と即答した。その上で「最近はカメラは、どこにでもあるので、カメラを何かに向けて回せば、映画監督なんですよ」と笑みを浮かべて即答した。

濱口監督が指摘するように、昔はフィルムで撮影していた映画も、今はデジタルが主流となり、性能が良く、かつ小型のデジタルカメラが家電量販店の店頭にも並んでいる。スマートフォンで撮影された映画も出てきており、機材の面や製作費の部分を考えても、映画を撮影するハードルが下がっていると言えるだろう。

そのことは、邦画と洋画を合わせた映画の年間公開本数にも如実に表れている。2013年(平25)に1000本を超えて以降、増加を続け、日本映画製作者連盟(映連)が発表した全国映画概況によると、日本国内の映画の公開本数は、19年は1278本(邦画689本、洋画589本)。コロナ禍に見舞われた20年は撮影の中止、延期や映画館の休業などを受けて減ったにしても、1017本(邦画506本、洋画511本)にとどまった。

「カメラを何かに向けて回せば、映画監督」と口にした濱口監督だが当然、話はそこでは終わらない。秘訣(ひけつ)を聞かれて紹介したのが、東京芸大大学院映像研究科で学んだ恩師の黒沢清監督(66)の

「カメラを、まずどこに置くのか、いつ回し始めて、いつ回し終わるかということを決定するのが監督の仕事」

という言葉だった。

その上で、濱口監督は「被写体が意思のある人間である場合、その人に何を見せてもらうのかという問題があって。恐らく交渉しなくてはいけない。見せて欲しいものがあるのであれば、自分自身も何かを差し出さなくてはいけないものは、恐らく存在していて、それをやらないと、見たいものは見せてもらえない」と俳優と向き合うことの必要性を口にした。そして「見たいものを見せてもらって撮れた時には、自分のことを、ある程度、映画監督なんだと認められるんだと思う。それが、カメラを回すということ以上に映画監督になることの条件の1つなのかも知れません」と語った。

「ドライブ・マイ・カー」は、アカデミー賞(3月27日授賞式)の国際長編映画賞(旧外国語映画賞)部門で、授賞対象を15作品に絞り込んだリストにも選ばれているが、濱口監督は「全てがうまくいったわけではない」と語った。また、取材などで自身のこれまでの集大成的な作品という見方をされることに対し「うるさいわいと思いながら、認めなければいけないところはある」とも語った。

学生や一般のファンに、映画監督になる方法と、本物の映画監督になる方法を語った濱口監督。教える、というより自らに言い聞かせるような言葉の先に「ドライブ・マイ・カー」の、その先に踏み込もうとしていく、熱いものを感じずにはいられなかった。【村上幸将】