第94回アカデミー賞授賞式が、27日(日本時間28日)に米ロサンゼルスのドルビー・シアターで行われる。かつて授賞式をタッグで取材した、村上幸将記者とロス在住の千歳香奈子通信員による、毎年恒例のアカデミー賞大予想大会。その2は、主要賞の行方を予想します。

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村上 作品賞など3部門にノミネートされた「コーダ あいのうた」(シアン・ヘダー監督)が、SAG賞(全米映画俳優組合賞)とPGA賞(全米製作者組合賞)の映画部門で作品賞を獲得しました。アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは俳優、プロデューサー、監督といった映画の作り手が投票権を持っていることから、米国内では「コーダ」が作品賞を取るのでは? という声が高まっています。続くのが、作品賞、監督賞、脚本賞など7部門にノミネートされたケネス・ブラナー監督の「ベルファスト」と、最多の11部門で12ノミネートされた、ジェーン・カンピオン監督の12年ぶりの新作「パワー・オブ・ザ・ドッグ」という見方が多いように思いますし、僕の予想も、そうです。

千歳 当初の下馬評では「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が本命と見られていましたが、SAG賞を取った「コーダ」が追い上げて、逆転受賞を押す声が高まっています。私も「コーダ」の作品賞は有力で、対抗馬は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」かなと思います。「コーダ」はApple TV+、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」はNetflixの作品で、どちらが作品賞を取っても大手配信プラットフォームのオリジナル映画としては初の快挙となり、時代の流れが変わってくるかもしれません。

村上 Apple TV+は「コーダ」で作品賞、トロイ・コッツァーの助演男優賞、ヘダー監督の脚色賞、「マクベス」でデンゼル・ワシントンの主演男優賞、撮影賞、美術賞と6部門にノミネートされました。またNetflixは「パワー・オブ・ザ・ドッグ」以外にも「ドント・ルック・アップ」が作品賞、脚本賞、編集賞、作曲賞の4部門。「tick,tick...BOOM!:チック、チック...ブーン!」が、アンドリュー・ガーフィールドの主演男優賞と編集賞の2部門。「ロスト・ドーター」がオリビア・コールマンの主演女優賞、ジェシー・バックリーの助演女優賞、脚色賞の3部門など、最多10作品で27ノミネートされました。

千歳 配信作品台頭の流れは止められないでしょうが、作品賞を含む7部門にノミネートされた「ウエスト・サイド・ストーリー」のスティーブン・スピルバーグ監督は、配信に反対しています。加えて、コロナ禍で苦しんだ劇場映画を支援したい思いが強まれば、配信作品ではない「ウエスト・サイド・ストーリー」や「ベルファスト」を推す流れが生まれる可能性もあります。そうなると、邦画初の作品賞と脚色賞、監督賞、国際長編映画賞の4部門にノミネートされた、濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」にも、票が流れるかも知れません。今年、配信作品が作品賞を初受賞して新たな時代の幕開けになるのか、その流れは来年以降に持ち越されるのか…注目です。

村上 個人的には「ベルファスト」の主要賞受賞、躍進は、あるのでは? と思っています。ブラナーは、89年の監督デビュー&初主演作「ヘンリー五世」で監督賞、主演男優賞にノミネートされたのを皮切りに、今回の作品賞と脚本賞で通算ノミネートは史上最多の7部門目。そろそろオスカーか? という期待の声も聞こえてきます。

千歳 アカデミー賞の前哨戦の1つ、トロント映画祭で観客賞を受賞しています。ブラナーの自伝的な映画で、幸せな日常が突然の暴動で悪夢に変わる、少年の目から見詰めた北アイルランド紛争の物語。ロシアのウクライナ侵攻が始まったタイミングで、世界中が注目していることから、くしくも現代に起きていることにつながっているという感覚を持つ人もおり、家族や故郷など普遍的なテーマは、アカデミー会員にも支持されやすいようにも思います。

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千歳通信員と村上記者の予想は、以下の通り。

【千歳通信員の予想】

※◎(本命)○(対抗)△(急浮上)

<作品賞>

◎「コーダ あいのうた」(シアン・ヘダー監督)

〇「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(ジェーン・カンピオン監督)

△「ベルファスト」(ケネス・ブラナー監督)

<監督賞>

◎ジェーン・カンピオン(「パワー・オブ・ザ・ドッグ」)

〇スティーブン・スピルバーグ(「ウエスト・サイド・ストーリー」)orケネス・ブラナー(「ベルファスト」)

△濱口竜介(「ドライブ・マイ・カー」)

<主演男優賞>

◎ウィル・スミス(「ドリームプラン」)

○ベネディクト・カンバーバッチ(「パワー・オブ・ザ・ドッグ」)

△アンドリュー・ガーフィールド(「tick,tick...BOOM!:チック、チック...ブーン!」)

<主演女優賞>

◎ジェシカ・チャスティン(「タミー・フェイの瞳」)

〇オリビア・コールマン(「ロスト・ドーター」)

△クリステン・スチュワート(「スペンサー ダイアナの決意」)

<助演男優賞>

◎トロイ・コッツアー(「コーダ あいのうた」)

△コディ・スミット・マクフィー(「パワー・オブ・ザ・ドッグ」)

<助演女優賞>

◎アリアナ・デボーズ(「ウエスト・サイド・ストーリー」)

〇キルステン・ダンスト(「パワー・オブ・ザ・ドッグ」)

 

【村上記者の予想】

<作品賞>

◎「コーダ あいのうた」

〇「ベルファスト」

△「パワー・オブ・ザ・ドッグ」

<監督賞>

◎ケネス・ブラナー

○ジェーン・カンピオン

△濱口竜介orポール・トーマス・アンダーソン(「リコリス・ピザ」)

<主演男優賞>

◎ベネディクト・カンバーバッチ

○アンドリュー・ガーフィールド

△ウィル・スミス

<主演女優賞>

◎オリビア・コールマン

<助演男優賞>

◎トロイ・コッツァー

○コディ・スミット・マクフィー

<助演女優賞>

◎アリアナ・デボーズ

〇キルステン・ダンスト

△ジュディ・デンチ(「ベルファスト」)