札幌市出身のシンガー・ソングライター半崎美子(41)がメジャーデビュー5周年を迎えた。6日に発売した記念シングル「蜉蝣(かげろう)のうた」は森山直太朗(45)の書き下ろしで、初めて自作以外の楽曲に挑んだ。さらに夜間中学校の校歌制作など活動の幅も広げている。ショッピングモールから生まれた歌姫が、新曲やこの5年間の思い、そして未来について語った。【取材・構成=黒河祐介】

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記念すべき5周年の楽曲は、まさかの提供曲だった。しかも日本を代表するシンガー・ソングライター森山の書き下ろし。半崎にとって特別な作品となった。

半崎 これまで自作にこだわっていたけど、5周年を迎え歌い手としての新たな試み。授かった曲を歌うことで、新たな扉が開くのではないかと。だったら尊敬する直太朗さんにとお願いしたんです。

森山本人の歌声でデモ音源が届いた。命が短いカゲロウになぞらえ、別れた人への忘れ得ぬ思いを慈しむような歌詞。森山らしい力強い旋律に心が震えた。

半崎 第一声から涙が止まらなくて。これを自分が歌うんだと思ったとき、自分が入る余地はないと感じた。あまりに曲が完成していて。直太朗さんが歌うべき曲だなと思って。

どうやって歌い自分の曲にするか悩んだ。森山から「ちゃんとあなたが歌うことで曲が成り立つように作った。自信を持って歌いなさい。絶対に半崎さんの曲になるから」と言われ、向き合うことができた。

半崎 この楽曲に導かれるように気持ちを委ねて歌おうと。直太朗さんは「この曲はこう聴いてほしい」とかを明示せず、受け手が自由に聞ける余白を残してくれていて。私の歌の作り方とは違う。曲に対する感じ方はそれぞれ。聞き手に委ねていいのだと思った。

17年間の下積みを経て17年4月にメジャーデビュー。この5年間を「派手にジャンプというより、1段1段昇っていく時間だった」という。活動の幅も広がり、19日開校の北海道初の夜間公立中学、札幌星友館中の校歌も手掛けた。都内の夜間中学などに出向き、若者から幼少期に何らかの事情で学校に通えなかった年配者まで、さまざまな境遇の生徒たちの声に耳を傾けた。そして校歌「私の物語」が生まれた。

半崎 学校にあった文集が特別な光を放っていた。学校に行けず、文字が書けないことで仕事につけないなど試練があった。そういう人たちが文字を書けるようになり、文集を通して人に言えなかった過去、つらい経験を口に出せるようになった。自分の半生を語ることはたいへんなことで、そこには学校生活で育まれた先生、生徒との信頼関係があって。これこそ歌にすべきことだと。

「ショッピングモールの歌姫」と呼ばれ、そこで出会う人たちとの対話から楽曲を紡いできた。「自分の思いではなく、誰かの思いを歌にする」。今でもその原点を貫く。ただ、この3年間はコロナ禍の影響で、半崎が求める触れ合いが思うようにできないでいる。

半崎 声なき声を漏らさず最後まで受け取りたい。それを形にしていくのが私の役割。今の状況では人と直接話せる場は少ない。(今後の音楽界も)デジタルでの配信などが主流になるかもしれない。それなら私はショッピングモールとか、逆にもっと直接対話を続けていきたい。人の匂い、温度を感じていける場所を守っていきたい。

◆半崎美子(はんざき・よしこ)1980年(昭55)12月13日、札幌市出身。札幌市内の大学在学中に音楽に目覚め、19歳で中退し上京。パン屋に住み込みで働きながら活動し、17年4月5日にミニアルバム「うた弁」でメジャーデビュー。同年11月に日本有線大賞新人賞を受賞。19年に天童よしみに「大阪恋時雨」を楽曲提供し、同年のNHK紅白歌合戦で歌われた。

◆蜉蝣のうた 表題曲は作詞作曲が森山直太朗、編曲は武部聡志。「地球へ」は05年に急性骨髄性白血病で亡くなった歌手本田美奈子.さんの思いを引き継ぐ活動「LIVE FOR LIFE」の公式ソングで、本田さんの散文をもとに半崎が書き下ろした。ほかに一発録りの新曲「私に託して」、「地球へ」の合唱バージョンを収録。

◆森山直太朗(もりやま・なおたろう)1976年(昭51)4月23日、東京都生まれ。02年10月にアルバム「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」でメジャーデビュー。03年3月に発売した「さくら(独唱)」が大ヒットし、同年のNHK紅白歌合戦に初出場。昨年はNHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の主題歌「アルデバラン」(AI)を作詞作曲した。

◆5周年記念北海道ツアー 6月16日=中標津町総合文化会館、同18日=釧路市生涯学習センター、同19日=幕別町百年記念ホール、同21日=札幌・カナモトホール。