3月末まで東京・帝国劇場で上演され、大反響だった舞台「千と千尋の神隠し」に、3人の新潟県出身者が出演している。13日の大阪公演(梅田芸術劇場)開幕へ向け、魚沼市出身のお笑い芸人、おばたのお兄さん(33)、村上市出身の武者真由(39)、新発田市出身の松之木天辺(47)のインタビューを全4回に分けてお届けする。最終回の今回は、3人が主演の上白石萌音(24)と橋本環奈(23)についてや、演出のジョン・ケアードとの交流について語った。

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-みなさんから見た主演の上白石さん、橋本さんについて教えてください

おばた 萌音ちゃんは、もう千尋。完全に憑依(ひょうい)しているんですよね。本当に千尋だなっていう感じなので。あと、身体能力がすごく高いんですよ。それが結構世間の方からしたら意外なところだと思うんですけど、憑依した身体能力の高い千尋が見られるっていうのが萌音ちゃん。環奈ちゃんは初舞台っていうのが信じられないくらい素晴らしいんですけど、彼女の武骨さみたいなものがすごく千尋とマッチしている部分がたくさんあります。すごく魅力です。2人ともめちゃめちゃ千尋なんですけど、すごく違う千尋なんですよね。ぜいたくですけど、比較できるならとてもいいと思いますね。2人とも千点満点、1万点満点なんですけど。全然違う千尋っていうのが面白いです。

武者 全くその通りですよね。全然違うけど2人とも千尋で、10歳で。面白いですよね。やっていても相手をしていても。

おばた フリーアナウンサーの笠井信輔さんが観劇が本当に好きな方で。いつも細かいレビューを関係者に配っているんですけど、笠井さんの表現で「あー、これはすばらしい。的確なのかもな」って思ったのが、萌音ちゃんの千尋はきれいな楕円(だえん)形、円を描いた楕円形なんだけど。環奈ちゃんの千尋っていうのは六角形、八角形な感じっていう表現を使っていらっしゃって。さすがだなって思いました。本当に的確な表現です。

-今回は主演の2人以外にもダブルキャストが多いです

松之木 カオナシと湯婆婆とよくいることが多いんですけど、それぞれの個性が爆発していて。一緒にいてスリリングで楽しいです。ものすごく密着して舞台に立っているんですけど、その時の息づかいが伝わってくるとか。体温、ぬくもりが伝わってくる距離でやらせてもらっています。その中で毎回みなさんわりと違うっていう。おおよそはあるんですけど、その日の湯婆婆だったり、カオナシだったりが舞台上でセッションしているような。すごくいい刺激をもらっています。本当はどちらも見てほしいですね。全然違うんですよ。なかなかチケットとれないですけど。ぜいたくですね。

-演出のジョン・ケアードさんについても。毎公演ごとにフィードバックなどはありますか

おばた めちゃくちゃありますね。もちろん肯定的なことがすごく多いんですけど。自分で考えて演じたことをめちゃくちゃ肯定してくれる。ゲネプロやプレビュー公演が終わっても、これ、ジョンが居続けたら一生完成しないだろうなってくらいありました。それが刺激的で。ジョンがいたから僕らも不可能を可能にじゃないですけど、限界値を超えるっていうところは、ジョンが導いてくれた気がしますね。

-印象的だった演出について

おばた 僕は経験が少ないので、一般的な視点で言うと、ドアシークエンスは圧巻です。千尋が湯婆婆のところに引っ張られていくシーンは素晴らしいなって思いますね。本当に躍動感が出て。緊張感が出てっていう。あれは振付師の方がつけたのかな。本当に超最優秀チームです。

武者 たくさんありますよ。原作ではないけれど、舞台にしかない演出もある。それとかもすごく「あー、ジョン!」って思うんですよね。最後の方とかも。ネタバレになっちゃうからあんまり言えないけど、楽しんでもらいたいですね。

松之木 普段の東宝の舞台に出ているミュージカル俳優さんばかりじゃないっていうのも面白いです。ダンスの方がいたり、演劇の方がいたり。ミュージカルバリバリの方がいたりっていう。本当に異種格闘技的な。あんまり共演したことがない人ばかりというのは面白い効果になっているんじゃないかなと思います。

-役柄についてジョンと話したこと

武者 私はワークショップが稽古前にあって。そのあとジョンに呼ばれて、ちょっと坊のセリフを読んでみないかと。で、ジョンから「坊の声はすごく有名だから極力それでいきたいと思っています。そういう声で舞台に立ったことありますか?」ってものすごく真顔で言われて。即答で、ないですって言いました(笑い)。でも、自分の中のありったけの坊を集めてセリフを読んで、そうしたらジョンが(手をたたきながら)最高じゃないかって喜んでくださって。そこで(役を)ゲットできたのかなって思っているんですけど。

-坊は途中で顔が出る演出に変えたと聞きました

武者 そうなんですよ。衣装がきた時に、全く視界0くらいの仮面のザ・坊みたいなのが届いて。これはどうなるんだろうなって思っていたんですけど、ジョンが「やっぱり顔を見せたい」って言ってくださって。私の顔が出るようなスタイルになりました。結構、本番間近くらいで坊の形が決定した感じで。顔が出てよかったなとは思っています。

-できてうれしかった印象深いシーンは

おばた 僕に関して言うと、カオナシがどんどん大きくなっていくんですね。最終的に6、7人とかでやっていて。カオナシ完全態みたいな時に、大きいパペットと言いますか、手を使うんですけど。その手の技術がすごく難しかったり、待機している時に、そこに収まりきらないんじゃないかとかいろんな話が出ていて。これはきっともうないものとしてやる、使わないという方向でやるんだろうなって思っていたんですよ。というのも演出が間に合ってなくて、手つかずだったんですよ。ジョンに演出されてないけど、俺らの頭の中でこねくり回して何とかしようってアイデアを出して、最終的にできたっていうのがあったので。僕はそこは絶対無理だと思っていました。妥協点の最有力候補かと思っていたら、できちゃったっていう(笑い)。

武者 早着替えとかもそうだし、場面転換が今回は全く暗転がない状態でスムーズに行われるっていう。何だろう、場面と場面のグラデーションが、本当にこれうまくいくのかな、照明入ったら大丈夫なのかな、みたいな事がすごく多かったです。ここ着替えて乗り込んだら間に合うのかなとか、そういう小さい小さい不安とかがありながらも、まあ素晴らしい総合芸術で見事にばーっとつながった時に、プレビュー公演でものすごく感動して。こんなに魔法がかかったように止まることなくつながったというのが、スタッフを含めてカンパニーの一体感を感じましたよね。そこに感動して、あ、これいけるんだなと自信になりました。

松之木 湯婆婆の周りのことをやることが多いんですけど、湯婆婆が使う魔法の契約書がヒラヒラ飛んでいたり、ペンがヒュッってなったり、名前が出てくるところとかどうやるんだろうって思っていました。やるものが演劇の魔法の力を信じてやれば十分想像力で補えるというか、むしろ演劇ならではの表現になって面白いということがわかって。ちょっとしばらく忘れていたこの感覚を呼び覚まさせてもらった感じがします。映像を使ったり、装置を使ったりみたいなのは最近多いじゃないですか。そういう力に頼らない、人力でやっているというのを見せられたというのが面白かったです。(完)

◆松之木天辺(まつのき・てっぺん) 1974年(昭49)4月28日、新潟県新発田市生まれ。98年オペラ劇団「オペラシアターこんにゃく座」入団。04年からコンテンポラリーダンスカンパニー「黒沢美香&ダンサーズ」などでダンサーとして活動。17年から香川県・小豆島を拠点に創作活動をスタート。ミュージカル「ラ・マンチャの男」など出演。178センチ、血液型B。

◆武者真由(むしゃ・まゆ) 1982年(昭57) 8月1日、新潟県村上市生まれ。昭和音楽大学声楽科卒業後、05年ミュージカル座入団。舞台を中心に活動。ミュージカル「ロイヤルホストクラブ」、ミュージカル「コンチェルト」、ミュージカルコメディー「ロイヤルホストクラブ」、舞台版「こちら葛飾区亀有公園前派出所」など出演。156センチ、血液型A。

◆おばたのお兄さん 1988年(昭63)6月5日、新潟県魚沼市生まれ。日本体育大学卒業後。東京NSC18期生で、13年にお笑いコンビ、「ひので」としてデビュー。16年に解散後はピンで活動。小栗旬のモノマネで注目を集める。21年、ミュージカル「ウェイトレス」など出演。妻はフジテレビの山崎夕貴アナウンサー。166センチ、血液型B。