ロッテ佐々木朗希投手(20)が4月10日のプロ野球オリックス戦で、28年ぶり、史上16人目の完全試合を達成した。

一気の“佐々木フィーバー”となる中、次回登板試合となった同17日の日本ハム戦を地上波で緊急生中継したのがテレビ東京だった。「注目の一戦を何とか視聴者に届けたい」。わずか1週間という準備期間の中でスポンサーらとも調整。CM枠の問題などに苦慮しながら、最大限の手を尽くして放送した舞台裏に迫った。【松尾幸之介】

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決断は早かった。10日に佐々木朗の完全試合達成の一報を受けると、スポーツ局で野球中継を担う横田栄治プロデューサー(P)らが中心となり、すぐに17日の試合中継の可能性を探った。翌11日朝から社内会議を行い、放送枠などについて確認。ロッテとは昨年の交流戦中継や、今年のお正月特番の放送などで良好な関係を築いていたこともあり、球団との交渉もスムーズに進んだ。

13日には試合開始と同じ午後2時から2時間の「日曜ミステリー」枠での生中継を決めた。しかし、緊急放送ゆえ、CM枠までは変えられなかった。総合編成局編成部の柴幸伸氏は「日曜ミステリーは局側でフレキシブルにCMを貼り付けていくスポットCMが多い枠。数を減らせない中でどうするかをスポーツ局と話し合いました」。営業部隊がスポンサーへの説明にあたると、変わらずCM放映を承諾する企業もあれば、ドラマからスポーツへのジャンル変更に難色を示す企業もあったという。

横田Pも「通常の野球中継よりもはるかに多いCM数だった」と振り返る。野球中継ではCMの本数とひとつひとつの分数、そして順番は中継前に決めなければならず、試合中に動かせるのはCMを入れるタイミングのみ。今回は「先に消化が原則」と試合前半に多くのCMを置いたほか、注目の集まる佐々木朗のピッチングを切らさぬよう、先攻の日本ハム攻撃前のCMを短くした。

結果としてロッテ攻撃前のCMは長くなることに。横田Pは「ロッテの攻撃が少し削れてしまうのは視聴者の方にとってもベストではないと思いつつも、やれる範囲の中ではああいう方法をとるしかなかった」。イニング間のほか、投手交代時もCMチャンスではあるが、その日は佐々木朗と日本ハムの上沢直之両投手が好投。CMを差し込めるタイミングが少なかった。

前週の完全試合から継続する佐々木朗のパーフェクトピッチングがどこで途切れるかもポイントのひとつだった。横田Pらが肝を冷やしたのは6回表。ここではロッテの攻撃が削れることに配慮し、5回表後のCMをなくし、グラウンド整備のある5回裏後に長めの5分間のCMを置いていた。しかし、締まった試合展開からか、グラウンド整備も想定より早く終了。結果として佐々木朗がCM中に2球投げてしまっていた。「もしあそこでヒットを打たれていたら…。1回流し始めたらCMは止められない。中継車の中でひたすら祈るしかなかった」(横田P)。

幸運にも佐々木朗はパーフェクトピッチングを続け、8回で降板。テンポよく進んだ試合展開にも助けられ、その全てを2時間の枠内で届けることができた。その後はBSテレ東で試合終了まで中継を継続。注目度も高さは数字にも表れ、同試合の地上波の平均世帯視聴率は5.9%(関東地区・速報値、ビデオリサーチ調べ)。これは同じく地上波で放送していた阪神×巨人(テレビ朝日系)の4.2%、DeNA×ヤクルト(TBS系)の1.4%を上回っていた。

4月21日の定例社長会見では、石川一郎社長が「視聴者のみなさまに記念すべき試合を放送できたということで、やったなと思っています。佐々木投手が8回まで完全試合を続けていて、9回からはBSにきちんと引き継げましたので、本当にうまくできたなと自画自賛しております」と語った。柴氏は「短いスパンで編成、営業、スポーツが連携して同じ方向を向いて作業ができた。社内的にも良かった」と笑顔をみせた。 今後の野球中継の予定は決まっていない。しかし、横田Pは「野球はもちろん、その時、その時のスポーツ界の人気、注目に関して番組を模索していくことが大事」と次の機会に備えてアンテナを張り続ける。さまざまな幸運にも助けられ、テレビ東京の思い切った決断は良い結果へと結びついた。