永瀬正敏(56)の代表作の1つ「私立探偵 濱マイク」の連続ドラマ版が、2002年(平14)7月の放送開始から20周年を迎えた7月、HuluとAmazonプライムビデオでの配信がスタートした。永瀬は昨年、同作以来19年ぶりの地上波連ドラとなるNHK「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」に出演したことが話題となった。「オリバー-」の続編制作も2月に発表された中、映画俳優・永瀬が、ドラマを語った。【村上幸将】

永瀬は「私立探偵 濱マイク」の配信開始を受けて「マイク的な世界観のもの、というのも、あっていい気がしますよね」と、かみしめるように口にした。マイク的な世界観とは何なのか? と問いかけると、しばし考えた末に「何て言うんですかね…ジャンルレス的なところがジャンルというか」と答えた。

「私立探偵 濱マイク」は、映画館「横浜日劇」に事務所を構え、本名で活動する私立探偵・濱マイクの日々を描いた。各所から依頼が舞い込み横浜・黄金町を駆け回る中、あいついで発生するトラブルに見舞われ、物語が展開していく。

「探偵ものとしては、ちょっと特異な物語というか…考えてもね、事件は1こも解決できていないですよね(笑い)。でも、依頼者の方々の、何かは救っているんだと思うんです。逆に、マイクも救われたりして」

ドラマ版のベースには94、95、96年公開の、林海象監督による映画3部作がある。00年前後にフィルムでの撮影が難しくなってきたことを受けて、連ドラの企画を具体化。全12話の監督を映画、CM、音楽、舞台の世界で最も刺激的な12人のクリエーターが務めた。永瀬以外のキャストも一新され俳優、歌手、芸人まで各界の人気者が起用され、多彩な才能が集結した。永瀬は、当時を振り返りつつ

「そういうドラマだったり、配信みたいなものが何か、形を変えてでもポツッ、ポツッとでも出てくると面白いですよね。新しいクリエーターの方たちもいっぱいいますし、今の世の中をよく知っている若手もいっぱいいるから、その人たちが血を注ぎながら…ね」と期待した。

そうした思いが、同作以来19年ぶりの地上波連ドラとなるNHK「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」への出演につながったのではないだろうか? 各界から多彩な才能が集まった、という点では引けを取らない。監督のオダギリジョーが着ぐるみを着て犬のオリバーを熱演し、池松壮亮、麻生久美子、本田翼、野性爆弾のくっきー!、細野晴臣らも出演した。

また主題歌「The Hunter」と「サイコアナルシス」を担当するEGO-WRAPPIN’は「私立探偵 濱マイク」のテレビ版の主題歌「くちばしにチェリー」も歌っており同じ“匂い”を感じるという声もある。

永瀬は「ありがたいことに、そういうふうに言ってくれる人たちはいますね。『オリバー-』に関しては、EGO-WRAPPIN’さんが主題歌ですし、僕も出させてもらっているということで、当時を見てくれていた人は『“濱マイク臭”も、ちゃんとあるよね』と言ってくれます。オダギリジョー監督が、そこを否定せず、生かしてくれているのは、ありがたいですね」と笑みを浮かべた。

一方で「ただ、マイクではないですからね。あれは犬が主役ですから。着ぐるみに演出していますからね」とも語った。では「私立探偵 濱マイク」の新作を作るとしたら、ドラマではなく原点に返って映画を作りたいのかと尋ねると、永瀬は首を振った。

「それは、関係ないですね。1本、完結させるのが映画。ドラマは構成上の狙いとして面白いことが出来ると思いますし、魅力的な仕掛けも、いっぱい出来ると思うんですよ」

その上で、今のドラマに、1つの提言を口にした。

「僕、いつも思って、いろいろ言うんだけど…。同じ時期に同じ局で、いわゆる医療ものと探偵ものをオンエアしていたりすると(探偵ものの劇中の)病院に、医療もののドラマの先生が出ると、すごい面白いのに…って思うんですよね。みんなで、そのクールを盛り上げるというか。役者同士で分かってくれれば『(撮影中に時間限定で)2時間、来て』と言っても来てくれると思うんですよ。そういうふうに何か、ミックスしていくと面白いものが出来そうですよね。2局は、きついのかも知れないですけど同じ局だったら…」

昨今、医療ものや恋愛ものなど、同じようなテーマや特定のジャンルのドラマばかりが、局を問わず制作されているという声がある。俳優はもちろん、脚本家まで、人気者は同じクールに複数の局のドラマに起用され「かぶっている」ことも指摘されている。いずれも批判的な論調だが、一般やメディアからだけでなく、俳優や演出家など、作り手の間からも出ている。

そこに、1つの解決法を指し示した永瀬の根底にあるのは「私立探偵 濱マイク」であり、作り上げた時代の体験だ。「これやったら、怒られるだろうなとか…今だったら、ちゃんと大人になって、いろいろ考えなきゃいけないところも、いっぱいある」と永瀬が語るほど、自由度が高い「私立探偵 濱マイク」。視聴者はもちろん、作り手にとっても現代だからこそ見る意義、価値はあるだろう。