仲代達矢(89)主演の無名塾公演「いのちぼうにふろう物語」が4日、石川県七尾市の能登演劇堂で開幕した。80代と役者生活70周年を締めくくる記念の舞台で、30公演のロングラン。10月10日まで。この日、来年の主演舞台と演出作も発表された。90歳になっても走り続ける姿が見られそうだ。
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無頼者が集う一膳めし屋の主人を演じた仲代。優しい表情や叱咤(しった)、ダイナミックな立ち回り、屋根の上での芝居などで魅了した。舞台奥の扉が開き、野山と一体化する舞台での大捕物も見どころ。約2時間の芝居を終えると、拍手は5分以上続き、3回のカーテンコール。仲代は両手を合わせ、深々と礼をした。役者生活70周年を締めくくる公演の幕開けだ。
実は開演の約3時間前、ハプニングがあった。稽古で仲代が舞台装置に足を引っかけ転倒、左肩や足を打撲した。一時、劇場に緊張が走ったが、医師の診断も受けOKが出た。本番では何事もなかったように、立ち回りをしてみせた。
先月27日に現地入りし、稽古と最終確認を行ってきた。「能登に入って、この演劇堂と呼吸を合わせながら自然の声も聴きながらお芝居を仕上げてきました。ともかく千秋楽まで演(や)り遂げようと、今はそれしかありません」と話す。
同作は、隆巴(りゅう・ともえ)の筆名で活動した演出家、脚本家で、妻宮崎恭子さんが手掛け、96年に亡くなるまで練り上げ続けた遺作。舞台初演は97年。今回は再々演で、仲代が今回の公演を「妻との共同作業のつもり」と話すように、カーテンコールでは、舞台に宮崎さんの写真が掲げられた。
作品のテーマ性にも強い思いがある。山本周五郎の「深川安楽亭」を元にした同作は、人が人を思うことの尊さが描かれる。見ず知らずの若者を助けようとする無頼者たち、その無頼者を見守る主人公。仲代は作品を現代に重ね「人間への深い信頼があれば、必ず戦争は避けられる。絵に描いた餅であっても、その絵を掲げて生き続けたい」。
12月13日には90歳になる。公演パンフレットでは「いのち-」を「役者としてのグランドフィナーレにしたい」思いを持っていたと明かすが、早くも次回公演が発表された。90代初の主演作は「バリモア」(来年3月16~23日、東京・シアター1010)。米名優ジョン・バリモアを描き、14年に仲代が初めて挑んだ一人芝居だ。
来年10~11月には演出作もある。七尾市で生まれた絵師長谷川等伯を描いた「等伯-反骨の画聖-」で、10回前後上演される。現段階では演出に専念する予定だが、出演の可能性も残っている。芝居への情熱は尽きることがない。 【小林千穂】
○…仲代は83年に能登を家族で訪れ、中島町(現七尾市)の自然と人情に魅了された。85年から無名塾の合宿稽古を行い、地元とのつながりができた。95年に仲代夫妻監修の能登演劇堂が開場。無名塾「ソルネス」でこけら落とし公演を行い、「マクベス」などのロングラン公演、全国巡演の皮切り公演などを行ってきた。能登演劇堂について仲代は、音の響きのすばらしさや舞台奥の大扉が開く機構を挙げ「演劇ホールとしては日本一」と自負する。



