歌舞伎俳優中村七之助(39)が、10月と11月の2カ月連続で「平成中村座」公演に挑んでいる。東京・浅草での公演は4年ぶりで、23年目で初めて新作歌舞伎が上演されるなど話題満載だ。父中村勘三郎さんが立ち上げた平成中村座を、兄中村勘九郎(40)と大きくしてきた。コロナ禍を経て、新たな1歩を踏み出した思いを聞いた。【小林千穂】
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取材は平成中村座で行われた。第1部終演後、舞台では次の演目の準備が進み、客席ではスタッフが1つ1つ座布団を手で整えなおしている。大きなちょうちんの下で撮影をした時に、七之助がぐるりと劇場を見渡したのが印象的だった。
「コロナ禍で舞台に立てなかった時、また平成中村座ができたらいいねというのは、最初からの夢、希望だったんです。お客様が劇場に来たこと自体を楽しんでくださるし、お茶子さんの声が楽屋に聞こえてたりすると、ああ平成中村座に帰ってきたなという気持ちになります」
連日、役者も観客も熱気があふれている。舞台と客席との一体感は平成中村座ならではだ。
「毎回、身の引き締まる思いです。お客様がたくさん入ってくれてよかったなと本当に思いました。(花道との近さも)僕たちもすごく久しぶりな感覚です」
第2部では、宮藤官九郎の作、演出による新作歌舞伎「唐茄子屋 不思議国之若旦那」が初上演されている。落語をベースに「不思議の国のアリス」の要素をちりばめた演目。新作が平成中村座でかかるのは23年目で初めて。七之助は傾城(けいせい)桜坂とお仲の2役で、桜坂は光るかんざし、電飾の付いた乗り物で、ど派手に登場する。
「脚本に『ルンバのような乗り物に乗って』と書いてあるんです。大変なんですよ。操作を自分でやるので、乗りこなすのに工夫しました。(かんざしにも)スイッチが6個ぐらい入ってるのでいつもよりは重いです。一生懸命くだらないことをしてるという感じです(笑い)」
舞台の両脇上方、幕が閉まると内側に入る場所には、桜席と呼ばれる席が配置されている。幕内が見えるこの席の特性を生かし、七之助は、桜坂とお仲との2役早替わりの様子をあえて観客に見せている。
「引っ込んで、見えない所で着替えてもいいんですけど、せっかくなので見せたいなと。やっぱり、楽しめる劇場ですからね」
劇場も演目も丸1日楽しめる構成。第1部は古典の名作2つ、第2部はしっとりした舞踊劇に新作。
「歌舞伎役者は女を演じたり、男を演じたり、いろいろなことをやって切り替え能力は多分、ピカイチだと思います。いろんな声を出すので、大変なことは大変ですけれども、声を大事にしていけば大丈夫かなとは思います」
平成中村座を立ち上げた父勘三郎さんへも思いをはせる。
「(新作を見たら)おもしろいって言ってくれると思います。一生懸命やんなよと言うだろうし、何か絶対出て楽しんでると思います」
平成中村座は11月も公演が続くが、その先も見据えている。
「浅草でもまだまだやりたいですし、コロナ禍で行けなくなった所にも必ず行きたいです。似合わない演目がない劇場なので、古典も新作もやっていきたいです」
■勘九郎長男&次男、獅童長男も
子供たちの活躍も見どころの1つ。第2部「唐茄子屋」には、勘九郎の長男勘太郎(11)と次男長三郎(9)が出演している。芝居心いっぱいで、拍手と笑いの連続だ。七之助は「稽古から本当に楽しそうでした。僕があの年齢の時は、恥ずかしさが勝っていましたね。いろんなことにチャレンジして、いろんなことがボツになりましたけど、本当に楽しそうで。2人にとっては貴重で楽しい時間だと思います。第1部「極付幡随長兵衛」には中村獅童の長男陽喜(はるき)君(4)が出演している。
■00年勘三郎さんが立ち上げた
「平成中村座」は12年に亡くなった中村勘三郎さんが2000年(平12)、勘九郎時代に立ち上げた。「江戸時代さながらの小屋がけの劇場で歌舞伎をやりたい」という夢を実現させた。隅田公園の仮設劇場で「法界坊」を上演したのが始まり。浅草寺境内や、名古屋城二の丸広場、大阪城西の丸庭園、小倉城勝山公園など国内だけでなく、ニューヨーク、ドイツ、スペインでも上演された。11年11月から12年5月にかけロングラン公演も行われた。
<風情たっぷり平成中村座>
▼客席 劇場内は土足厳禁。1階前方は座いす、その他は長いす席で、1つ1つ座布団がある。2階正面にはお大尽席と呼ばれる特別席、幕内の桜席なども。
▼お茶子さん 劇場スタッフのこと。入場、トイレ列の整理、幕あいのPR、分散退場まで、きびきびした声がよく通る。
▼隠れ勘三郎 勘三郎さんの目を模したイラストが、18代目にちなんで18カ所に。分かりやすい場所もあれば、思ってもみなかった所で発見する楽しみも。
▼定式幕 平成中村座の定式幕は、黒、白、茶の3色で、江戸時代の中村座から引き継がれている。よく見る歌舞伎の定式幕は、黒、茶、緑の3色。
<公演概要>
◆「平成中村座 十月大歌舞伎」(27日まで) 第1部「双蝶々曲輪日記 角力場」「極付幡随長兵衛」、第2部「綾の鼓」「唐茄子屋 不思議国之若旦那」
◆「- 十一月大歌舞伎」(11月3~27日) 第1部「寿曽我対面」「舞妓(しらびょうし)の花宴」「魚屋宗五郎」、第2部「唐茄子屋」「乗合船恵方萬歳」



