NHKは5日、前田晃伸会長(77)の後任に来年1月25日付でリコー経済社会研究所参与の稲葉延雄氏(72)を任命することを経営委員会で決定した。任期は3年。

稲葉氏は静岡県出身。1974年(昭49)に東大経済学部を卒業して日本銀行入行。考査局長、システム情報局長、理事などを歴任。08年(平20)5月にリコーの特別顧問に転じて、専務、取締役会議長などを務めた。今年6月から現職に就いていた。

稲葉氏はNHKを通じて「NHKの次期会長に任命されることが決まりました。突然のご指名で大変驚いておりますが、できるだけ早く実情を把握し、公共放送の使命にふさわしい仕事をしてまいりたいと思います」とコメントを発表した。

5日夜、東京・渋谷のNHKで森下俊三経営委員長(77)と村田晃嗣経営委員長職務代行者(58)らが会見した。

森下委員長は「次期会長候補として、まず指名部会で稲葉氏を候補にした。その後、経営委員会で経営委員会12人全一致委で稲葉氏に決定しました。次期会長にふさわしいと方判断した理由は、第一に次期会長の資格要件を満たしていると経営委員全員が認めたから。2点目は自主性、自立性が必要とされる日本銀行において、長年にわたり日本経済の発展に貢献するとともに、理事として金融システムの安定に向けた政策決定に寄与されるなど豊富な経験、幅広い知識、見識があること。3点目は民間企業で環境が激変する中での経営の経験があり、リーダーシップを発揮して、人を求める力、人の意見を聞く力、組織風土を改善する力があり、前田会長の進めてきた改革を引き継ぐことが期待出来るということであります。4点目は組織の活性化を図り、現場との対話を重視した安定的な運用が出来るということ。5点目は公平、公正を重んじる公共メディアという観点を強く意識しており、NHKのガバナンス強化に期待が持てるということであります。以上5つの点で、私ども公共放送、公共メディアのNHKの会長としてリーダーシップを発揮していただけると判断いたしました」と話した。

指名部会では稲葉氏以外に、前田会長も含めて複数の候補を検討して決定。稲葉氏は指名部会の後の経営委員会に出席した。森下委員長は「NHKの改革に取り組みたいと意志を表明した。経営委員全員がふさわしいとなった。検討した中に内部の人間がいたがどうかについては、内部、外部ということは言えない」と話した。

NHK会長の年間報酬は約3000万円。外部の現役の経営者を求めるのは難しいのではとされていた。森下委員長は「報酬面での苦労はなかった。別に報酬の話はしていない」と説明した。

前田会長の仕事については、指名委員会で「手続きとして、全委員に述べてもらった。ほとんどの方が、大きな仕事をしたという評価だった。次は、それを修正しながら改革をやらなくてはならない。新しい人が別の観点でやることが適切となった。ご本人ではやりにくいでしょうから」と説明した。修正点については「人事が、若手がいたりもしましたが、必ずしも評価されていない。なおすべき所はなおしていくということです」と話した。

前田会長は、来年1月24日を持って退任する。受信料値下げやネットでの同時配信などの課題に取り組んできた。今月1日の定例記者会見で「次の方に改革を担ってほしいと思う」と述べ、高齢を理由に2期目の続投を改めて否定していた。稲葉次期会長は受信料減少や組織のスリムなどのNHK改革を引き継ぐ。

NHKの会長は、住友銀行出身で元アサヒビール社長の福地茂雄氏、元JR東海社長の松本正之氏、三井物産出身で元日本ユニシス社長の籾井勝人氏、元三菱商事副社長の上田良一氏、元みずほフィナンシャルグループ会長の前田氏らに続き、6代続けて経済界出身の会長となる。

森下委員長は「基本的に、内部、外部という発想はない。資格要件を満たしていれば。時代に合わせて、NHKをどのように持って行けばいいのか、経営できる人という観点で選んだ。専門じゃないという声もあるが、それなりの成果を上げてきた優秀な経営者は何カ月か勉強すれば大丈夫だと思う。NHKにも優秀な人材がいるので、リーダーシップがあればいいと思う」と話した。

時代の変化に対応できる稲葉氏の資質について、森下委員長は「経営委員会でご本人がリコーで12年間の経験があるとおっしゃっていた。インターネットの時代にリコーでの経験がすごく生きると思います。あと、日銀で日銀法の改正をした時に、放送法を参考にしてよく勉強してらっしゃる。そちらに関しても、全く素人なわけではない。経営委員会の中にも、稲葉氏と接点がある人がいた。職員との対話も問題ないと思う」と説明した。

経営委員の誰が推薦したかについては「人事のことについては。経営委員の中に接点のある人がいたと言うことです。条件に合う人(稲葉氏)がいたということで。NHKをトップとして引っ張っていける人だと思う」と話した。