「ナインティナインのオールナイトニッポン」(木曜深夜1時)の構成を94年7月の1部昇格から29年にわたって務める、放送作家小西マサテル氏(57)の小説「名探偵のままでいて」(宝島社)が、「第21回このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、このほど出版された。前編では、今回の小説のことについて聞いた。    【小谷野俊哉】

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昨年10月に大賞を受賞した時の題名は「物語は紫煙の彼方に」だった同作は、認知症の元小学校校長が、孫娘が持ち込んでくる不思議な事件を、知性を取り戻して解決していく物語だ。

「きっかけは3年ちょっと前に85歳で亡くなった、私の父親です。その7年前から、ずっとレビー小体型認知症という病を患っていたんです。普通、よく聞く認知症というのはアルツハイマー型認知症ですよね。いろいろなことを記憶できなくなったり、知人の顔を忘れてしまう。レビー小体型認知症というのは、見えるはずのないものが、くっきりと見える『幻視』というものが起きる。うちの父の場合は、青い虎やライオンだったり、大蛇だったりが、朝起きると、部屋にいて怖いという、結構壮絶な幻視で…。他の患者さんに聞くと、ウサギだったり子猫だったり、そんなに怖いものは出てこないらしいんですけど、父は、そういう怖いものが見えるということでした」

父は香川の実家に、小西氏は東京に離れて住んでいた。

「最初におかしいなと思ったのは、独居生活を送っている父に、大丈夫かな? と電話すると『あれ、なんで今、東京や。さっきまでワシと一緒に飲んでたやないか』と。『いやいやいや、俺はずっと東京だよ』と。幻視と錯覚なんですよね。これはただ事じゃないと大きな病院に連れて行ったら、パーキンソン病と診断されたんです。でも、もっと大きな病院に連れて行ったら、レビー小体型認知症ということで。そこからは進行具合がひどくて…。一日中子供がついてまわるとか。朝起きると10人ぐらいの無表情の男の子がじっとこっちを見ているとか…。これはちょっと、実家に1人で置いといたんじゃと、6年前に東京に呼び寄せました」

自宅から5分ほどの場所に、父を預けるのにちょうどいい施設があった。

「不思議なもので、薬の調合が合うと本当に良くなるんです。普通、認知症っていうと、不可逆なものというか、もうよくならないと思われている。進行を止めるぐらいまでですよね。それがドラスチックに良くなった。一番良かったのは、お医者さんが言ってくれたんですけど、やっぱり会話だと。独居生活を送っていれば、1日誰ともしゃべらないってこともあるじゃないですか。東京に呼び寄せてからは、僕は1年に350日ぐらい、妻は毎日行ってくれてたんですよね。そうなると本当にどんどん良くなって、最後の2年ぐらいは、会話もごく普通のおじいちゃんでした。だから、レビー小体型認知症が、『認知症』というワードでひとくくりにされることに違和感がありました。せめて、この病気の名前だけでも、ちょっと世間に周知できればと。これがモチベーションで書きました。それで、僕が書くんだったら、ちっちゃい頃から好きだった、ミステリーの形で、と」

レビー小体型認知症は、つらいだけの病気ではないという。

「専門医からうかがった話なんですけどね。レビー小体型認知症は、いろいろな病気の中で唯一、タイムトラベルができる病気なんです。だから悪いことだけでもないんですよと。なんでかというと、患者は夢の中に生きてるんですね。基本、傾眠状態と言って、寝ていることが多い。そして、夢からさめる。父の場合は青い虎の夢を見てるわけなんですが、例えば小学校の時の夢を見ていて、起きると一番の親友が目の前にいるという。あるいは幼い頃にかわいがっていた子猫の夢を見ていて、起きたらその子猫がじゃれついてきて、しばしの間“過去”に戻ることが出来て喜んでいたという患者さんが、実際にいらっしゃるそうです。病気だからって、全部マイナスに捉えるんじゃなくて、いいこともあると」

父が亡くなって1年後の2021年に、「名探偵の-」を書き始めた。

「5カ月ぐらいで書き上げたんですけど、なんだかんだ手を入れたりして、結局は10カ月ぐらいかかりました。全部で6章あるんですが、最後の章の内容を決めて、そこに向かって書いていく感じでした。書き始めた時には、もう応募しようと思っていました。1次審査で残りました、2次審査で残りましたと連絡が来て、最終審査に8作品が残ったんです。8つの最終候補が決まった段階で、初めて編集者さんから電話がありました。それで、いつ最終選考会が開かれるかを告げられて、終わった段階で必ず電話を差し上げますと」

最終候補作に残ってから、受賞の当否が決まるまで、かなりの期間待つことになった。

「なかなか精神的につらい。賞が決まるまでの間、朝からひたすら散歩してたり、いろいろな人がいらっしゃるみたいです。自分の場合は、発表の5日ぐらい前からアメリカに行ったんですよ。家族連れで、エンゼルスの大谷(翔平)を見に行ったり、ディズニーランドに行ったり、USJに行ったりしてね。それで、帰ってきたタイミングで成田空港で電話受けるという段取りにして。落ちても、まあいいやってね。落ちたみたいだけど、大谷よかったよねって。大谷見たもんな、みんなでねって、言うつもりで行ったんです。それで帰ってきて、電話がかかって来て受賞のしらせでした。でも、宝島社さんの編集の方ではちょっとざわついてたらしいです。賞の対象の人が、この大事な電話の時に、のんきにロスに行ってたらしいと(笑い)」

(後編に続く)

◆「名探偵のままでいて」 主人公の楓は、小学校の教師。かつて小学校校長だった祖父は、レビー小体型認知症を患い、幻視の症状に悩まされていた。だが、楓の周りで起きた不可解な出来事を聞くと、知性を取り戻し謎を解き明かしていく。

◆小西(こにし)マサテル 1965年(昭40)8月19日、香川・高松市生まれ。高松第一高時代は落研に所属。明大文学部時代に漫才コンビ、チャチャとして日本テレビ系「お笑いスター誕生」、フジテレビ系「冗談画報」などに出演。在学中から渡辺正行に師事して放送作家に。94年7月からニッポン放送「ナインティナインのオールナイトニッポン」を現在に足るまで担当。他に「徳光和夫とくモリ!歌謡サタデー」「鶴光のオールナイトニッポン.TV@J:COM」など。南原清隆の「ナンチャンお気楽ライブ」構成・演出も手がける。