歌舞伎俳優松本幸四郎(51)が、東京・歌舞伎座「三月大歌舞伎」(26日まで)で昼夜にわたって熱演中だ。夜の部では、通し狂言「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」に主演。複雑な心情を見せる難しい役どころに丁寧に挑んでいる。18年1月に10代目幸四郎を襲名して以降も「止まりたくない」と、守りの姿勢は一切見せない。【小林千穂】
◇ ◇ ◇
1月に51歳になった。以前、50歳を前に「あえて50歳という年齢を意識したい」と言っていたので、どんな1年だったかと聞くと「時間に追われてあっという間に終わった1年でした」と苦笑いしつつ、続けた。
「50代では初めてではないことが多いですから、しっかりちゃんと目的を持って、視野を広くして冷静になって、役だけに集中したいですね。でも、俺はまだやるよ、というメッセージの1つが、年始にドリフに出たことです(笑い)。襲名したから、50代になったからという理由で、止まるのは嫌なんです」
「伊勢音頭-」の主人公、福岡貢(みつぎ)は、伊勢神宮の神職。かつての主家が紛失した名刀「青江下坂」を探している。柔和だが、きりりとした強さがある役どころだ。染五郎時代の17年に歌舞伎座で、幸四郎襲名後の21年に松竹座で演じている。今回はこれまで以上に、目線に強い意志が表れているのを感じた。
「憧れの魅力的な役です。初役の時は、松嶋屋のおにいさん(=片岡仁左衛門)に教えていただきました。ただただ怒ってキリキリと奔走している男ではなく、動揺や驚きやうれしさもある。とても難しいものがありました。でも、のめり込める、大好きな役です」
貢は感情の色合いが複雑な上、物語の前半と後半もがらりと雰囲気が変わる難しさもある。
「そのコントラストが歌舞伎の典型です。だからこそ見て幅のあるお芝居になるんだと思います」
1つの物語の発端からクライマックスまで上演する形式を「通し」と呼ぶが、「伊勢音頭-」に関しては、歌舞伎座での通し上演は62年ぶり。幸四郎にとっても通しは初だ。
「全体的なテンポ感がとても大事になると思います。通しで上演すれば話が分かりやすい、ということではないんです。通しでやるのであれば『やっぱり(上演機会があまりない場が)あった方がいいね』と言っていただけるものを目指さないといけない」
コロナ禍の影響で、演目の上演時間を短くする傾向は続いているが、通し上演も少しずつ増えている。
「果たして通し上演ができる時はくるのかと思ってましたから、うれしいですね」
「伊勢音頭-」の貢は名刀に魅入られるが、我を忘れてしまうようなものを聞いてみた。しばらくうーんと考えた。
「歌舞伎、って言っちゃうとつまらない回答なんですよね…。でも、昔のやり方を調べたり、まだこんなやり方があるのか、ああすれば良かったな、と考えたりするのが一番幸せな時間です」
■24年スケジュール 4月こんぴら、5月映画鬼平
24年は1月の歌舞伎座から始まった。「息子」では父松本白鸚、息子市川染五郎と親子孫3代で共演し話題になった。2月博多座では、江戸川乱歩の小説が原作の新作歌舞伎「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」に出演、明智小五郎を演じた。3月の歌舞伎座が終わると、4月は「四国こんぴら歌舞伎大芝居」が待っている。本来なら20年4月に襲名披露興行の一環で訪れる予定だったが、コロナ禍で中止になってしまった。幸四郎は「春の琴平町に来ませんかと、大きな声でまた言える時が来た」と話す。
12月は新橋演舞場で、歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」が上演される。07年に松竹と劇団☆新感線がタッグを組み、幸四郎(当時の染五郎)が主演した作品。かなりの体力が必要になる作品で、「誰よりも筋力を付けたい」と意気込んでいる。
また、主演映画「鬼平犯科帳 血闘」の公開も5月に控えている。



