元宝塚歌劇団星組トップ湖月わたると、同じく元星組トップ柚希礼音が、ダンス演劇「マイ フレンド ジキル」(東京・よみうり大手町ホール=12月16~22日、大阪・梅田芸術劇場=同27~29日)に主演する。1人の男に宿る善と悪がスリリングに入れ替わる名作小説「ジキル博士とハイド氏」をモチーフに、湖月と柚希がダンスと語りで演じる2人芝居。待望していた柚希との共演や異色作に挑む意気込みなどを湖月に聞いた。【取材=林尚之】
★幸せを感じています
湖月がトップに就任した時、柚希は入団5年目の若手だった。湖月が主演した役を、新人公演で柚希が演じることも多かった。
「ちえ(柚希の愛称)は私にとって、特別な下級生でした。ちえの退団後のコンサートにゲストで出演したことはあるけれど、『いつか2人でしっかりと組んで、作り上げるような舞台をやりたいね』と話していました。だから、こんなすてきな作品を2人でというお話をいただいた時は本当にうれしかった」
6月には2人そろっての宣伝用のビジュアル撮影も行われた。
「久しぶりに会ったのに、昨日まで一緒にいたかのように、居心地のいい空気感でした。時間の距離がすぐ縮まりました。退団してから、お互いにいろいろな経験をさせていただいて、その上で2人が向き合う作品に取り組める幸せを感じています」
★親友役が物語を進行
「マイ フレンド ジキル」は、1886年に出版され、何度も映画や舞台にもなった名作「ジキル博士とハイド氏」をモチーフに、劇作家瀬戸山美咲の上演台本と演出で2019年に初演された。
登場するのは医学博士ジキルと、親友の弁護士アタスン。善と悪の二面性を持つジキルとハイドをダンスで表現するパフォーマーと、尊敬するジキルの不穏な行動に心揺れるアタスンの視点で物語を進める語り手の2人だけが出演する。しかも、2人は回替わりで2役をそれぞれ演じる。
「ハードルが高い作品だと思います。でも、私はハードルが高い方が燃えるんです。先日、世界陸上の中継を見て、0・1秒の世界で競い合う姿に、私たちにももっとできることがあると、思うようになりました。ジキルとアタスンは友情と絆で結ばれているけれど、私たちの信頼関係が作品に反映されると思います」
原作を改めて読んだほか、映画も昔の無声映画を含めて4作ほど見たという。
「潜在意識の中で、誰もが嫉妬する気持ちや、言わなくてもいいことを言ってしまうことがあるでしょう。ジキルは、越えてはいけない一線を越えてしまい、ハイドというもう一つの人格で自由に生きる。ジキルの中で一線を越える瞬間をうまく表現できたらいいなと思います」
自ら振り付けを務めることもある湖月だが、今回の振り付けは、英国でダンサーとしても活躍する益井悠紀子が担当する。
「益井さんはコンテンポラリーダンス、ヒップホップなど多彩な要素を含む振り付けで海外を中心に活動している方。役のパフォーマンスとして、どんな振り付けをするのか、とても楽しみです」
稽古はこれからだが、湖月には注目してほしいことがあるという。
「舞台の最後に、原作にはないせりふがあります。観劇されたお客さまに持って行ってほしいメッセージが込められています。こちらも楽しみにしてください」
◆湖月(こづき)わたる 1989年(平元)に宝塚歌劇団に入団。若手時代から174センチの長身を生かしたダイナミックなダンスで注目され、03年に星組トップ就任。「王家に捧ぐ歌」「ベルサイユのばら」などに主演し、06年に退団。退団後は音楽劇「カラミティ・ジェーン」ミュージカル「くたばれ!ヤンキース」「愛と青春の宝塚」などに主演。OGバージョンのミュージカル「シカゴ」にヴェルマ役で出演したほか、15年、全編英語上演のアメリカン・カンパニー来日公演「シカゴ」にヴェルマ役で限定出演した。退団後に高卒認定を取得。放送大学教養学科で心理学・教育学など専攻、卒業した。
◆マイ フレンド ジキル 19世紀末のロンドンで、弁護士のアタスンは、医学博士で法学博士でもあるジキルと出会う。人格者でもあるジキルにあこがれと尊敬を抱き、日曜には公園で話すことが習慣になっていた。しかし、ある日、ジキルは現れず、同じ頃にハイドという暴力的な男のうわさが広がる。アタスンはジキルから預かっていた遺言書の中にハイドの名があったことを思い出し、ジキルに関係を聞いても、何も語らなかった。そして、名士の男が撲殺される事件が起こり、犯人はハイドだったことが分かる。
■「エリザベート」で“2つ”のルキーニ役
来年2、3月に東京国際フォーラム、大阪・梅田芸術劇場、名古屋・御園座で開催される「エリザベート TAKARAZUKA30th スペシャル・ガラ・コンサート」に、湖月は96年星組、98年宙組の両バージョンにルキーニ役で出演する。完売必至の人気公演で、「お客さまが楽しみにしていただいていることに、感謝の気持ちでいっぱいです」。ルキーニは物語の進行役で、主要キャスト。宝塚在団中も演じたが、「当時はなかったルキーニの生い立ちなどの資料が、ネットで簡単に読めるように。25周年(のガラ・コン)でもルキーニを演じたのですが、その時、演出の小池(修一郎)先生から『役を深めてくれてありがとう』と言っていただき、追求することに無駄ではなかったと思いました」と振り返った。



