昨年12月に開催された第58回日本作詩大賞(主催・日本作詩家協会)で、「二枚目気取り」(吉幾三)を作詞した麻こよみ氏が大賞に輝いた。女性作詞家初の2度目の大賞受賞だった。30歳前後から習いごととして作詞を始め、星野哲郎氏、松井由利夫氏に師事。これまで約800作品を手がける人気作詞家となった。3回連載の第2回は「作詞家麻こよみ誕生」です。【笹森文彦】
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福島県郡山市で生まれた。読書は好きだった。ごく普通に音楽も聴いたが、作詞家になろうとはまったく思っていなかった。
高校を卒業し、進学のために上京した。社会人となり、空いてる時間に、習いごとに通った。だが、長続きはしなかった。
「陶器作りは爪が汚れるので途中で止めました(笑い)。ギター習いに行ったら、指が痛いんですよ。それで止めました」
次は何やろうと思っていた時、「作詞教室 生徒募集」という広告を見た。
「普通、作詞家志望の人は詩を書くのが大好きでしたって言うんでしょうけど、私は土日が空いていたから、行ってみようかなっていう感じでした。1年間通いました」。
教室には、いろんな作詞家が教えに来た。その中に星野哲郎氏もいた。
「函館の女」(北島三郎)「三百六十五歩のマーチ」(水前寺清子)「アンコ椿は恋の花」(都はるみ)など、すでに屈指のヒットメーカーだった。
「星野先生がすごくすてきで、仲良くなった教室の仲間3人で先生の講演を聞きに行ったんです」
場所は東京・渋谷で、早めに着いたので、近くの喫茶店に入った。すると星野氏も関係者と一緒に入って来た。3人は立ち上がって深々とおじぎをした。
「まだ30そこそこで若かったですから、先生に『どこのお店の女の子?』って言われて(笑い)。教室に通っていて、先生に会いたくなったので講演を聞きに来ました、って説明したんです。そしたら『家で勉強会やっているから来ればいいじゃないか』って」
星野氏は都内の自宅の離れ屋を提供して、「桜澄舎(おうちょうしゃ)」という若手作詞家の勉強会を主宰していた。「人生いろいろ」(島倉千代子)「珍島物語」(天童よしみ)など3度作詩大賞に輝いた中山大三郎氏も通っていた。
「みんな演歌の作詞家になりたくて弟子入りしているのに、私はただのミーハーで行った(笑い)。先生に『作文のような詞ばかりじゃなく、バシッと短い詞を出しなさい』って言われて。いつもあ~あ…、っていう感じでした」。
星野氏はゴルフ会も開催し、多くの音楽関係者が参加していた。麻氏もゴルフをするので、ある時「松井由利夫を(自分の車に)乗せてゴルフ場に来い。お前も交ぜてやるから」と言われた。
松井氏はその後「箱根八里の半次郎」(氷川きよし)「だんじり」(中村美律子)で、2度作詩大賞を獲得する人気作詞家だった。
「私が運転する時に居眠りしないように、業界話とかしてくださる、とてもいい方でした。詞に困ったら『最後、あと1行、ア~ア~を付けとけ』って(笑い)。いろんなことを教えていただきました。私にとって星野先生と松井先生が作詞の師匠です」
そうこうしているうちに、「来年(87年)、坂本冬美というのがデビューする。演歌、書けるか」という依頼が舞い込んだ。
それまで無名の歌手に書いたことはあったが、将来有望な歌手への初めての作詞だった。「雨あがり」「角番」の2曲が、アルバム「祝い酒」(88年)に収録された。
「私の作詞家の始まりはそこですね。それ以後、アルバム作品をしばらく手がけて、(坂本の師匠の)猪俣公章先生に『いよっ、アルバム作家』って言われてました(笑い)」。
その後、コンスタントに作品を書いた。そして、ついに女の一途な思いを描いた「蒼月(つき)」(長山洋子)で、第27回日本作詩大賞を受賞するのである。(最終回に続く)
◆麻こよみ(あさ・こよみ) 本名・石田美代子。福島県郡山市生まれ。86年に藤田まさと第1回新人賞。日本作詩大賞は2度の大賞以外に、第54回で「下町銀座」(長山洋子)で審査員特別賞受賞。代表曲は「令和音頭」(北島三郎)「なかせ雨」(小林幸子)「花吹雪」(天童よしみ)「津軽の花」(原田悠里)「ふたり咲き」(坂本冬美)「はぐれ花」(市川由紀乃)など多数。
◆日本作詩大賞 1968年(昭43)に始まった。日本作詩家協会が主催し、主に演歌・歌謡曲が対象。作品や歌手ではなく、作詞者が受賞する。作詩大賞曲を歌った歌手は、森進一が「花と蝶」(作詞・川内康範氏)「恋ひとすじ」(同藤田まさと氏)「さらば友よ」(同阿久悠氏)「冬のリヴィエラ」(同松本隆氏)「北の蛍」(同阿久悠氏)「ゆうすげの花」(同中山大三郎氏)と、連覇を含め6作品を歌唱している。以下は氷川きよしが5作品、五木ひろしが4作品、都はるみと天童よしみが3作品を歌唱している。
【注】日本作詩家協会、日本作詩大賞は固有名詞で「作詩」を使用していますが、歌うことを目的とした歌曲の詞は一般的に「作詞」を使用しています。



