昨年12月に開催された第58回日本作詩大賞(主催・日本作詩家協会)で、「二枚目気取り」(徳間ジャパンコミュニケーションズ)を作詞した麻こよみ氏が大賞に輝いた。女性作詞家初の2度目の大賞受賞だった。「熟年離婚」がテーマの男歌で、吉幾三(73)の歌唱を熱望して実現した作品だった。これまで約800作品を手がける人気作詞家の麻氏を、3回連載で紹介する。第1回は「二枚目気取り」。【笹森文彦】
第58回日本作詩大賞は昨年12月6日、BSテレ東で生放送された。18作品の中から、麻氏が作詞し、吉幾三が歌った「二枚目気取り」(作曲・杉本眞人)が大賞を獲得した。テーマ、ストーリー性、巧みな心情表現などが評価された。
麻氏は同曲と、「北の断崖(きりぎし)」(山内惠介)、「身勝手な女」(青山新)の3作品でノミネートされていた。
大賞に決まると、吉から祝福の抱擁を受けた。大賞曲の再歌唱の際には、吉が感極まって涙した。
麻氏は「作家ってうぬぼれ屋ですから(笑い)。でも(大賞を)取りたいじゃなくて、3個もノミネートされているんだから、1個ぐらい何かもらえるんじゃないって、そんな感じでした。とても光栄です」と素直に喜んだ。
「二枚目気取り」のテーマは熟年離婚。男の視点で歌われる男歌である。
長らく連れ添った『おまえ』に、前触れもなく別れを切り出される。寝耳に水の男は動揺しつつも、二枚目気取りでうなずく。
酒にたばこ。振り返れば身体を気づかう『おまえ』を、けむたく思っていた。二枚目気取りで鍵を渡して、カバン1つで家を出た。
うまくやっていると思っていたのは自分だけだった。もし「別れたくない」と言っていたら…。後悔の念ばかりが浮かんだ。
麻氏は「こんな(熟年離婚の)歌詞ですから、若い歌手ではだめなんです。(作曲の)杉本先生の曲を聴いて、これはもう絶対吉幾三さんしかいないって思いました」と話した。
実は、レコード会社から依頼された作品ではなかった。敬愛する杉本氏に「詞を書いたら、送っていいですか」という、個人的なやりとりから始まった。
「杉本さんに見てほしくて書いたんです。なので最初は吉さんのイメージはありませんでした」という。
作詞家として、社会の動き、流行などに常にアンテナを張っている。
「演歌は女がフラれてつらい、悲しいという歌がほぼほぼなんですよ。そういうオーダー(作品の依頼)も多い。でも時代的に、特に熟年離婚は女から言い出すのが多くなっているんです。女性が別れを言うのも面白いんじゃないと、スラスラ書きました」
すぐに杉本氏が作曲してくれて、それを聴いて「歌いこなせるのは吉さんしかいない」と確信。杉本氏の了解を得て、吉の担当ディレクターに自ら売り込んで、発売が実現した。
麻氏は「もし最初から、吉さんにって作詞を頼まれていたら、この歌はできていなかったかもしれません。今までの吉さんの作品を全部チェックして、似て非なるものを書かなきゃって臨むでしょうから。『酒よ』みたいな方向に行っていたかもしれません」と振り返った。
「二枚目気取り」を聞いたスタッフや友人の男性陣は「俺のことだ…」と身につまされているという。
58回を数える日本作詩大賞で、大賞を獲得した女性作詞家は4人。
第1号は第12回の阿木燿子氏(「魅せられて」=ジュディ・オング)。第27回の麻こよみ氏(「蒼月」=長山洋子)。第31回の山口洋子氏(「アメリカ橋」=山川豊)。第49回の田久保真見氏(「空蝉の家」=堀内孝雄)。第58回の麻こよみ氏(「二枚目気取り」=吉幾三)。
麻氏は女性作詞家初の2度目の大賞受賞となった。
「『蒼月』でいただいた時はまだ素人同然でした。業界のことも何も分からず、ただテレビに映るから親兄弟が喜ぶなって(笑い)。周囲も『麻こよみって女だったんだ。誰かのペンネームかと思っていた』ぐらいの知名度でした。あれよあれよで、取っちゃったという感じでした」
しかし、翌年から仕事が次々と舞い込んだ。
「『大賞取ったんだから、試しに頼んでみよう』って。八代亜紀さんに書いてみないか、とか。本当に運が良かったと思います」
麻氏は大賞獲得2年後の第29回で、八代亜紀の「あんた逢いに来い」で再びノミネートされる。
以降、作詞家として快進撃が始まった。(第2回に続く)
◆麻こよみ(あさ・こよみ) 本名・石田美代子。福島県郡山市生まれ。星野哲郎氏、松井由利夫氏に師事。86年に藤田まさと第1回新人賞。日本作詩大賞は2度の大賞以外に、第54回に「下町銀座」(長山洋子)で審査員特別賞。代表曲は「令和音頭」(北島三郎)「なかせ雨」(小林幸子)「花吹雪」(天童よしみ)「津軽の花」(原田悠里)「ふたり咲き」(坂本冬美)「はぐれ花」(市川由紀乃)など多数。
◆日本作詩大賞 1968年(昭43)に始まった。日本作詩家協会が主催し、主に演歌・歌謡曲が対象。作品や歌手ではなく、作詞者が受賞する。当初はNHKで生放送されていたが、現在はBSテレ東が生放送している。過去、大賞は阿久悠氏が2度の連覇を含む最多の8回。以下、星野哲郎氏、吉岡治氏、中山大三郎氏が3回。石本美由起氏、なかにし礼氏、池田充男氏、松井由利夫氏、水木れいじ氏、吉田旺氏、麻こよみ氏が2回。
【注】日本作詩家協会、日本作詩大賞は固有名詞で「作詩」を使用していますが、歌うことを目的とした歌曲の詞は一般的に「作詞」を使用しています。



