昨年12月に開催された第58回日本作詩大賞(主催・日本作詩家協会)で、「二枚目気取り」(吉幾三)を作詞した麻こよみ氏が大賞に輝いた。麻氏は第27回(94年)でも「蒼月(つき)」(長山洋子)で大賞を獲得しており、女性作詞家初の2度目の大賞受賞となった。歌詞は「頭2行」が勝負といい、時には自分の信念を貫く歌詞も書く。3回連載の最終回は「こだわり」です。【笹森文彦】
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「麻こよみ」はペンネームである。本名は石田美代子。占い好きの友人から、ペンネームをつけるなら「漢字1文字、ひらがな3つ」がいいと言われた。
ひらがな3文字の「こよみ」は、本名の「美代子」(みよこ)をひっくり返した。漢字1字は辞書のア行から調べ始めたら、すぐに麻が出てきて「きれいでいい」と決めた。
「いいかげんなペンネームで、よくここまで来ましたね(笑い)」
歌詞は1番の「頭2行」が勝負という。聴く人、カラオケで歌う人を最初から歌の世界に引き込める。もう1つ、仕事人として大きな理由がある。
「レコード会社のディレクターさんが歌詞を見て、頭2行が良ければ、すぐに『いいですね~』ってなるんです(笑い)」
以下は麻氏の代表的な1番の「頭2行」である。
▼「惚れた男の見る夢を 一緒に見るのが女です」(長山洋子「蒼月」)
▼「あなたの心に誰かいる 気づいた時には 遅すぎて」(小林幸子「なかせ雨)
▼「冬の寒さに耐えてこそ 花は咲きます 実もつける」(原田悠里「津軽の花」)
▼「夏の日射しも 木枯らしも 両手広げて よけてやる」(坂本冬美「ふたり咲き」)
▼「女の胸の傷あとを 海鳴飛沫(しぶき)が また揺する」(水森かおり「竜飛岬」)
▼「『私より 幸せに ならないで』 女の本音の 意地悪さ」(青山新「身勝手な女」)
▼「別れてほしいと 前触れもなく おまえはポツリと つぶやいた」(吉幾三「二枚目気取り」)
ディレクターや作曲家からの歌詞の直しの依頼は、厭わないという。
「絵だったら、構図も色も全部1人で決められるけど、歌って詞、曲、アレンジ、歌い手があって完成品ですから。ただ、どうしても納得できない場合は、はっきり言います。結果は変わらなくてもいいんです。私、はっきり言えは気が済む人なんで」
歌詞に自分の信念を込めることもある。
「別れて行く男に、私だったら、1発ほっぺた殴るかもしれない。幸せになってなんて絶対言わない。でも、ひっぱたくのはどうかなとも思う」
そんな思いを込めた頭2行がある。
▼「舗道にのびたあなたの影を ポンとヒールで 蹴ってみた」(坂本冬美「雨あがり」)
「(坂本の師匠の)猪俣公章先生が『なんだ、この詞は!』って。でもスタッフの女の子が『ここが面白い』って言ってくれてます、と言い返したんです(笑い)」
演歌の女歌は悲恋、純愛などのテーマが多い。日々、勉強を欠かさない。
「男と女の関連本を集めています。こういうふうに口説きましたとか、こんな時にフラれましたみたいな。あと、ドラマのセリフをノートにメモしています。10冊ぐらいあるかな。もちろん、どちらもまんまじゃ使えないので、ヒントにしています」
これまで約800作品を手がけた。その中でいま一番気に入っている歌詞は、昨年末の第58回日本作詩大賞にノミネートされた「北の断崖(きりぎし)」(山内惠介)の2番という。
♪嘘などつかぬと 言う嘘を ついて私を抱いた人
「おばさまたちがみんな分かる、分かるって(笑い)。タイトルも自分で考えました。断崖(だんがい)だったら男歌になってしまう。辞書で調べたら『きりぎし』とも読むって知りました。『やった!』という感じでしたね」
作詞家志望の人へのアドバイスは、自らの経験から「制作宣伝営業をやる覚悟を持って」という。
「書くことは当然ですが、書くだけだったら詩人になってしまいます。本当に作詞家になりたいんだったら、レコード会社のディレクターさんにどうしたら届くか、どうアピールするかも考えて。コネでもなんでもいいです」
女性初の2度目の作詩大賞を獲得した「二枚目気取り」も、自分で営業してつかみ取った結果だった。
3度目の栄冠に向け、これからも書き続ける。(おわり)
◆麻こよみ(あさ・こよみ) 本名・石田美代子。福島県郡山市生まれ。星野哲郎氏、松井由利夫氏に師事。86年に藤田まさと第1回新人賞。日本作詩大賞は2度の大賞以外に、第54回に「下町銀座」(長山洋子)で審査員特別賞。代表曲は他に「令和音頭」(北島三郎)「花吹雪」(天童よしみ)「はぐれ花」(市川由紀乃)など多数。
◆日本作詩大賞 1968年(昭43)に始まった。主に演歌・歌謡曲が対象。作品や歌手ではなく、作詞者が受賞する。BSテレ東が生放送している。過去の女性作詩家の大賞は、第12回の阿木燿子氏(「魅せられて」=ジュディ・オング)。第27回の麻こよみ氏(「蒼月」=長山洋子)。第31回の山口洋子氏(「アメリカ橋」=山川豊)。第49回の田久保真見氏(「空蝉の家」=堀内孝雄)。第58回の麻こよみ氏(「二枚目気取り」=吉幾三)。
【注】日本作詩家協会、日本作詩大賞は固有名詞で「作詩」を使用していますが、歌うことを目的とした歌曲の詞は一般的に「作詞」を使用しています。



