テレビ朝日「トリック」シリーズのミラクル三井や、現代劇の“女形”で知られる、俳優篠井英介(ささい・えいすけ、67)が、舞台「欲望という名の電車」の女主人公ブランチを19年ぶりに演じる。3月12~22日に東京芸術劇場シアターイースト、4月4、5日に大坂・近鉄アート館で上演される。篠井に聞いてみた。
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テレビ朝日系「トリック」シリーズのミラクル三井、TBS「下町ロケット」の敵役と、個性的な演技が印象的な篠井。現代劇の“女形”としても知られ、1992年(平4)に初めてブランチを演じようとしたがかなわなかった。作者の劇作家テネシー・ウイリアムズが「男は男優が演じて、女は女優が演じる」と遺言を残していた。
「92年は、権利がダメでやれませんでした。9年後の01年にやれて、その後は03年、07年にやって、今回は19年ぶり。日本では歌舞伎の伝統があったし、宝塚歌劇もある。だけどアメリカのリアリズム演劇としては、あり得ないっていう時代でした。9年後に許可をいただきましたが、多分ブランチという役を男がやったのは、世界で僕が初めてだと思います。いまだに僕以外に男性でやってる人は聞いたことがないですから」
「欲望という名の電車」を好きになったのは、高校生の時。600回近くブランチを演じた、女優杉村春子の舞台を見た。ブランチは名門に生まれ育ち、夫と死に別れて落ちぶれていく。
「杉村さんが元気でやられてるのを見て、素晴らしい、これをやりたいなと思いました。昔は、滅びの美学みたいに言われていました。『かつての優雅だった時代、粗野な人たちによって優美な世界が滅んでいく』ということの象徴としての見方がすごく多かった。今となっては時代も違いますから、1人の女が一生懸命自分の夢を追い求めたのにかなわなかったということ。あとは妹夫婦が穏やかに平和に幸せに楽しく暮らしているところへ、異物が混入してくる。それがブランチなんですけど、そのブランチを最終的には狂気にいたらしめて去っていかせて、また生活が始まる。そういう相いれない人間同士、相いれない文化のぶつかり合いみたいなものが面白い。また、残酷とも、悲しいとも、当然とも言えることが面白さですね」
19年ぶりの「欲望という名の電車」。
「今まで3回演じてまして、19年前が最後。それで終わらせようと思っていました。杉村さんは80代ぐらいまでやってましたけど、あちらは女性ですから。男性が演じるにあたって、こんな年齢になってるのには、お客さまも抵抗があるんじゃないかと。おじいさんじゃないかと思われたり、すごく大変な役で気力、体力が必要なのでね。それで、終わりだなって19年前は思ってたんです。だけど、なんとなく死ぬ前に1回やっておきたいなという気持ちになりました」
5歳の時に日本舞踊を始めた。
「その当時の金沢はとても雅(みやび)な街で、そういうものに触れる環境があった。それで僕もやりたいって言いまして、環境が許してくれた。母も、そんなにびっくりしなくて。おばあちゃんが邦楽、三味線とかをやってました。父母は別段やってるわけじゃないけども、母はお茶やったり、お花やったり、親戚のお姉ちゃんはお琴を弾いたり、そういう環境が導いてくれたなと思います。金沢は、そこそこの都市なので演劇が東京から来る。その都度見てました。僕は舞台の上で何かをやる人になるという風に決めていたんです」
中学1年の時に映画「サウンド・オブ・ミュージック」を見て、俳優になることを決めた。日大芸術学部演劇学科に進んで、望む通りの俳優の道を歩み始めた。
「それなりに大変だったけど、客観的に見たらこんな幸せな俳優はいない。30歳までは劇団とアルバイト。30歳くらいで辞めないといけないと思っていたら、映像のお仕事が来るようになって、なんとか生活ができるようになりました。劇団『花組芝居』というのをやっていて、小劇場やアングラのブームがあって、注目されたんです」
67歳になった。念願の「欲望という名の電車」の上演にもこぎつけた。
「そんなに長生きするつもりはないんですけど、こればっかりは分かりません。定年というものがないんでね。体が資本なので、肉体労働者だっていうことはまぎれもないこと。できる限りは、ご依頼があるうちはね。でも、どこかで見切りつけるような気もします。そういう意味ではこの『欲望という名の電車』を無事に務め上げるということが、この先の試金石になるような気がします」
舞台の上で、演じることで生きてきた。
「舞台に立っている時が、生きている実証みたいなところがあるのでやめられないんだと思います。舞台に立っている時だけは、自分は生きている実感がある。俳優の業ですね。やっぱり一人きりでは、舞台の幕も開かないし、幕も降りない。それを痛感しています。でも、思った通りの道で一番やりたい役をやって、すごく幸せな人生だと感じています」【小谷野俊哉】
◆篠井英介(ささい・えいすけ)1958年(昭33)12月15日、石川県金沢市生まれ。日大芸術学部演劇学科卒。84年ネオかぶき劇団「花組芝居」旗揚げに参加。98年舞台「毛皮のマリー」主演。00年(平12)テレビ朝日「トリック」。172センチ。血液型A。



