東京都議選まで1カ月。注目選挙区の1つが、今年2月、小池百合子都知事と「都議会のドン」内田茂氏の代理戦争で話題になった区長選の舞台、千代田区だ。小池氏が特別顧問を務める「都民ファーストの会」の樋口高顕氏(34)と、都議を引退する自民党の内田氏が後継にした中村彩氏(27)が、激突。「代理戦争再び」の構図だ。

 その千代田区で、都議選の候補者ではないものの、今もほぼ毎朝、駅前で「選挙活動」をしている男性がいる。五十嵐朝青(あさお)氏(41)だ。

 五十嵐氏は、2月の区長選に出馬。小池氏VS内田氏の代理戦争に、「第3の男」として切り込んだ。代理戦争に埋もれる形にはなったものの、2位の自民党候補に782票差に迫る得票を獲得。他陣営の関係者を驚かせた。

 区長選では、誰もが参加できる選挙スタイルを貫いた。さまざまな年代の人がボランティアで参加。小池氏の選挙手法に代表される「劇場型」と対極の、「参加型」だった。一般の人への垣根を低くすることで、政治を身近に感じてもらいたかったという。

 区長選の後、五十嵐氏に話を聞くと、「正直、勝ちにいきました。勝てる可能性はあると思っていたので、力が抜けた」と話していたのが印象的だった。代理戦争ばかりが注目され、「区民の方に客観的におかしいと思ってもらえたら、分があると思っていた。主張を伝えきれず、くやしい」とも聞いた。

 選挙後、「参加型の区長選挙」について、多くの問い合わせが入ったそうだ。「今の政治って、『由らしむべし、知らしむべからず』で、分かりにくい。見えるようになれば、優秀な人材も来る。劇場には(出演者など)一部の人が参加する。でも、舞台に皆が上がって演じる方が、楽しいでしょ」(五十嵐氏)。

 先日、JRの駅前で朝、自身のチラシを配る五十嵐氏を、再び訪ねた。大学生や、出勤前の社会人がサポート。今も、五十嵐氏の周りでは「参加型」の活動が続く。毎日の駅立ちで、あいさつをかわす「顔なじみ」さんも出てきた。

 五十嵐氏の区長選の手法は、SNSなどで拡大し、これまで都議選、地方選挙への打診も受けた。ただ、今は4年後の千代田区長選を再び目指す考えだ。「政治家を目指すのかと言われるのは、違和感がある。何でもいいのかといわれると、そうではありません」。

 そんな五十嵐氏に21日、意外な場所で出会った。都議選で千代田区(定数1)に出馬する自民党の中村氏の街頭演説だ。「友人に声をかけられた。一区民として、声を聞かないと(候補者の)考えが分からないから」。もう1人の樋口氏の演説にも、足を運びたいと話していた。

 おひざ元で再び始まる、劇場型の代理戦争。今回の都議選はリングの外から見守る五十嵐氏は、どのような形で「参加」するのだろうか。