岸田文雄首相(21年11月30日撮影)
岸田文雄首相(21年11月30日撮影)

「後手後手」。まさか、この言葉がこんなに早く岸田政権に向けられる日がくるとは、正直、考えていなかった。今は、新型コロナ・オミクロン株の猛烈な感染拡大が止まらない「第6波」のさなか。第5波がなんとなくおさまりつつあった昨年10月4日に発足し、大半がコロナ収束傾向期間の日々を過ごしてきた岸田政権の危機管理力が問われる環境が、じわじわ広がりつつある。

ワクチンの3回目接種をめぐっても、感染拡大のさなかに接種開始が遅れている。副反応などを念頭に「3度目はモデルナ」を敬遠する人が多いためだが、首相らが国民にモデルナ接種を必死に呼びかけるものの、そもそも事前の見通しの甘さもあったような気がする。濃厚接触者の待機期間の見直しについても各方面から批判が相次ぎ、10日から7日に短縮されたが、判断が遅れて追い込まれたようにもみえた。先週の予算委員会でも、野党に再三突かれていた。

岸田首相の政治スタイルは、政策の方向性が適切でないと気づけば、修正をいとわないのが特徴。「安倍&菅時代から激変」といわれる姿勢を、ある野党議員は「ツッコミどころが難しい」と手を焼いていたが、いよいよ突っ込まれる場面も増えてきた。1月25日の国会答弁では、首相が珍しく机をたたきながら反論する姿もみられた。

ワクチン対策をめぐり「再評価」の声もある菅義偉前首相は、「自分でどんどん決めていった」といわれる。昨年末、菅氏の講演を取材した際、1日100万人接種と目標を決めた際は「2、3日眠れなかった」と話していた。

菅義偉前首相(21年12月7日撮影)
菅義偉前首相(21年12月7日撮影)

良くも悪くもトップダウンで進められたが、それでも総合的にコロナ対策が「後手後手」といわれ、自民党内の権力闘争もあいまって菅氏は退陣に追い込まれた。

「有事には強いリーダーシップが不可欠」とはよくいわれることだ。コロナはまさに有事だが、岸田首相から、国民が安心できるようなリーダーシップは、まだなかなか感じられない。

岸田首相の売りは「聞く力」。確かに、車座集会や、自民党幹部とのきめ細やかな会談など、人の話を聞いている様子はある。一般紙に毎日掲載される「首相動静」で最近の面会相手を調べてみると、やはり厚生労働省関連の相手が多い。個人では、首相就任前からの「懐刀」と呼ばれる木原誠二官房副長官が多く、就任以来40回を超え、オミクロン株の感染拡大と合わせるように、今月に入って会う頻度も増えている。ただ、専門家やブレーンの話を聞いて対応に当たっても、コロナの感染はその数歩先をいくように広がる。ある政界関係者は「ピンチの時にさまざまな人の意見を聞くのは必要だが、政権発足時の滑り出しがあまりにも良かっただけに、岸田首相の有事への心の準備は、やや足りなかったのではないか」と話す。

オミクロン株もいつかはピークを越える時が来るはずだが、現段階では感染拡大の見通しは立っていない。岸田政権にとっても、外国人入国規制などの水際対策強化など、就任直後の「先手」攻撃で蓄えた貯金だけで、今後を乗り切れる状態ではなくなってきている。誰がトップでも厳しい対応を迫られるコロナ問題であることは理解できるが、コロナに翻弄(ほんろう)される政治を、国民はこの2年あまり見てきた。これまで順調といわれてきた岸田政権も、まさかの「デジャヴ(既視感)」に襲われつつある。【中山知子】