大雨の中、初めての街頭演説で参院選での支持を訴える生稲晃子氏(2022年4月29日撮影)
大雨の中、初めての街頭演説で参院選での支持を訴える生稲晃子氏(2022年4月29日撮影)

選挙では、候補者同士の戦いとは別に、その候補者を支援する大物たちが同時にしのぎを削り合う対決となることがある。しばしば「代理戦争」と呼ばれ、時には権力争いに絡むような場合もある。選挙戦が熾烈(しれつ)であればあるほど、勝敗の結果は候補者だけでなく、大物たちのその後の求心力にも影響する。

7月に予定される参院選でも、このような選挙区があるが、中でも東京選挙区(改選6)では、自民党などの候補者のバックにいる大物たちの「大物度」がとりわけ高いこともあって、候補者同士の戦い以上に注目される「代理戦争」の1つとなりそうな感じだ。

東京選挙区の自民党公認は、新人の元「おニャン子クラブ」メンバー生稲晃子氏(54)と、2期目を目指す元ビーチバレー選手朝日健太郎氏(46)。6議席を争う戦いの表舞台にいるが、その「スピンオフ」といってもいい舞台裏には、生稲氏を派閥として支援する安倍晋三元首相と、朝日氏を支援する菅義偉前首相がいる。さらに、ファーストの会の新人、荒木千陽氏(40)には、長年師弟関係にある東京都の小池百合子知事が支援の構えだ。

憲政史上最長となった第2次安倍内閣で、首相と女房役の官房長官として1強体制をつくりあげた安倍氏と菅氏。そこに、本人は否定しても、国政復帰を含めた今後の動向が常に臆測を呼ぶ小池氏の動きも絡む。なかなかない顔ぶれの「代理戦」といえる。

スピンオフ版の3人が表に出てくることはまだないが、「控えている感」は漂う。

生稲氏は4月6日の出馬会見で、出馬を決断するに当たっては安倍氏に近く、自民党の参院幹事長を務める世耕弘成氏から打診を受けたことを明かした。世耕氏は党内最大派閥の安倍派所属で、安倍氏の理解がなければ擁立に動けるはずもない。党内最大派閥が全面支援することで、引退する安倍派の現職、中川雅治氏が得てきた東京選挙区の議席を引き続き安倍派で押さえることに並々ならぬ意欲がかいま見える。

ただ、党内を取材すると、当初生稲氏に期待された知名度への反応はいまひとつだという声もあるといい、東京に地盤を持つ議員ら関係者が支援に当たっている。

6年前の参院選出馬会見で、当時選対委員長だった茂木敏充・現自民党幹事長と握手する朝日健太郎氏(2016年6月7日撮影
6年前の参院選出馬会見で、当時選対委員長だった茂木敏充・現自民党幹事長と握手する朝日健太郎氏(2016年6月7日撮影

朝日氏は、2020年9月発足の菅内閣で、国土交通政務官に抜てきされた。菅氏を支持する無派閥の中堅・若手議員の1人で菅氏に近いが、自民党関係者によると、陣営には、生稲氏の擁立で「票を食われかねない」と、危機感が生まれているという。菅氏をめぐっては、「勉強会」を軸にした新たなグループの発足も見込まれており、その規模にも注目が集まるだけに、自身に近い議員の議席は守りたいはずだ。安倍氏、菅氏はともに首相経験者同士。その2人が激戦区で競い合う同じ党の候補者を支える構図は異例だ。

一方、荒木氏を支援する小池氏も、自分のおひざ元の東京で元秘書の愛弟子が落選するようなことになれば、自身の求心力にも影響しかねない。今年3月の定例会見では「都議会での女性活躍のけん引役だった。東京の大改革から日本の大改革につなげたいということで、心から応援したい」と語った。2017年衆院選で小池氏が立ち上げた「希望の党」が、昨年の衆院選では「ファーストの会」が、ともに国政進出を目指しながらかなわなかっただけに、今回は「三度目の正直」で国政での足場を築くことをねらっている。

国民民主党の玉木代表(右)と街頭に立った荒木千陽氏(2022年4月24日撮影)
国民民主党の玉木代表(右)と街頭に立った荒木千陽氏(2022年4月24日撮影)

7月10日投開票予定の参院選まで2カ月半。東京での候補者の動きも活発となってきた。生稲氏は4月29日、人生初という街頭演説で大雨の中、ずぶぬれになりながら「名前と顔を覚えてください。支援してください」と訴えていた。朝日氏も連日、街頭演説や集会への参加を重ね、政策を訴える。荒木氏は4月24日、小池氏も出席して決起大会を開いた後、推薦を受ける国民民主党の玉木雄一郎代表と街頭に立ち「大きな既存政党と戦う決意をしました」と訴えた。

東京選挙区には、ほかの主要政党でも立憲民主党の蓮舫氏と松尾明弘氏、公明党の竹谷とし子氏、共産党の山添拓氏らも出馬予定。6人の枠を目指して、さらに多数の候補者がひしめくことが予想される、そんな参院選東京選挙区での「大物たちの代理戦争」。候補者の戦い以上に激しい「劇場」となりそうな様相だ。【中山知子】