高市早苗経済安全保障担当相(21年9月撮影)
高市早苗経済安全保障担当相(21年9月撮影)

立憲民主党の小西洋之参院議員が3月2日、放送法の「政治的公平」をめぐる新たな解釈に関し、第2次安倍政権時に官邸側の「圧力」があったとする総務省の「内部文書」だという文書を公表した。2014年から2015年にかけて、官邸と総務省の担当者と協議の経緯が記されているという。小西氏は「個別の番組への政治的な圧力」だと指摘。政権側は現段階で、その真贋(しんがん)をめぐり慎重な立場をとっているが、行方次第では、岸田政権を揺るがしかねない可能性もはらむ。

文書の信ぴょう性の是非に加え、当時の安倍晋三首相と電話した内容とする記載が、文書に書かれていると指摘された高市早苗・経済安保担当相(当時の総務相)が、文書を「全くの捏造(ねつぞう)と考えている」と断言したためだ。捏造でなかったことが判明した場合は、閣僚の辞任、議員辞職も「構わない」と、たんかを切った。

高市氏は2021年の自民党総裁選で岸田氏に敗れたが、閣僚経験を重ねた有力女性議員の1人。後ろ盾とされた安倍氏の死去で立場はさらに不安定になってはいるが、勢いであんなたんかを切るとは思えない。切るには切るなりの理由があるはずだ。一方、小西氏は放送法を所管する総務省の官僚出身。文書は、古巣でもある同省の職員から託されたとし「超一級の行政文書」と主張している。

第2次安倍政権では、加計学園の獣医学部新設をめぐり「総理のご意向」などと書かれた文書の存在が指摘された。当初、「確認されない」としていた政権は最終的に存在を認め、大きな不信感を招いた。森友学園国有地売却問題では、公文書の改ざんという、あってはならない事態が起きた。政権に都合の良くない記載がある文書が公になった時、時にあり得ない展開をたどる可能性があるということが露呈した。

小西氏と高市氏のやりとりがあった後、インターネット上では、高市氏の反論を念頭に「捏造文書」という言葉がトレンドワードとなった。立憲民主党の前身の1つ、民主党では2006年、結果的に「偽」と判明したメールをもとに政権を追及する質問を国会で行ったとして、所属議員が辞職に追い込まれ、執行部も総退陣。今回のやりとりを受けて、SNS上には当時のことを指摘したコメントも多くあった。

当時、「偽メール」問題の取材をしていて、当初は真実のように語られた内容が、だんだん離れていく経緯を目の当たりにした経験がある。

取材する中で、かつて政権中枢のスキャンダルを暴いて「国会の爆弾男」といわれた楢崎弥之助さんに、インタビューをした。話を聞いた当時、メールが真実かどうか最終的な結論はまだ出ていなかったが、楢崎さんは自身の経験や状況を踏まえ、「厳しい」との見方を示していた。

「国会の爆弾男」と呼ばれた楢崎弥之助さん(2006年2月撮影)
「国会の爆弾男」と呼ばれた楢崎弥之助さん(2006年2月撮影)

独自入手した内部文書をもとに、国会で政権を追及する場合に必要な「身構え方」は、こちらが想像する以上だった。「いったん権力の存立にかかわるような問題が出た時、権力は身構える。あらゆる手段を使って、つぶそうとする。私は経験しましたから」。楢崎さんは2012年に亡くなったが、モリカケ問題の時も、楢崎さんに聞いたこの言葉を思い出したものだ。「情報が来てもすぐに取り上げることはできない。全部自分で調べ、足で歩いて真実かどうか確かめた。1つのネタについて3~4カ月、長いものなら半年はかかる」。事実をつかむため、いかに周到な準備が必要かも説いていた。

「最後はどうせ真贋論争になる。本当かどうかが問われた時、協力して説明してくれますかという許可を取れた時だけ(質問を)やった」。仮に自身の指摘が間違いだったら「議員は辞める覚悟でした。国会の権威って、軽く見てはいけません」とも話していた。

「モリカケ問題」では、都合の悪い文書が明るみに出た場合の処し方が、権力側に突きつけられた。一方、国会で内部文書をもとにした追及がなされる時は、追及する側の「身構え方」にも、関心が注がれることになる。

今回、小西氏が指摘するような「圧力」の事実があったのか、それとも高市氏の言う「捏造」の内容なのか。第2次安倍政権下のことではあるが、高市氏自身の言及で進退がかかる形となり、岸田首相の責任にもつながる問題になった。小西氏の問題提起が、政権内に混乱を生む「芽」になったのは確かだ。【中山知子】