年明け直後からの「オミクロン政局」で岸田文雄首相の指導力が厳しく問われる中、政界では早くも、“ポスト岸田”を含めた「近未来の首相」の人気番付が、格好の話題となっている。有力月刊誌の新年企画がきっかけで、自民党内の権力構図の未来予測ともなるからだ。

もちろん「一寸先は闇」とされる政界で、来年どころか数年後の首相が誰かを論ずるのは「鬼が大笑いする話」ではある。ただ、「首相にしたい政治家」の上位4強は林芳正外相、河野太郎広報本部長、茂木敏充幹事長、福田達夫総務会長で、保守のマドンナ・高市早苗政調会長、人気抜群の小泉進次郎総務会長代理は下位に低迷していることが目を引く。

しかも、「5年後」の首相候補は福田氏断然トップで、河野氏が2位。両氏は、いずれも祖父以来の首相を目指す3代目で、しかも前2代は首相就任で明暗が分かれただけに、永田町では「家系による“宿命”」(首相経験者)などの臆測も広がる。


■「ポスト岸田」は林芳正氏がトップ

この新年企画は、月刊誌『文藝春秋』が、年明け発行の2月号で「次の総理、5年後の総理」と名付けた特集記事。政治の現場で取材する各メディア所属123人の政治・経済記者へのアンケートの結果をまとめたものだ。

それによると、ポスト岸田となる「次の総理候補」ではトップが林氏(31票)、2位が河野氏(18票)、3位が茂木氏(16票)で、4位に岸田首相(9票)がランクイン。高市氏は5位(8票)にとどまった。

一方、「5年後の総理候補」では1位福田氏(28票)、2位河野氏(14票)3位林氏(11票)で、4位には安倍派成長株の萩生田光一経済産業相(6票)が食い込んだ。「次の総理」ではわずか3票だった福田氏が断然トップで、高市氏はわずか3票、3位だった茂木氏は圏外となった。

この結果を見た多くの政界関係者は、「ポスト岸田の『次の総理』は、現時点でキングメーカーとされる安倍晋三、麻生太郎両元首相や、菅義偉前首相、二階俊博元幹事長の影響力維持が前提となっている」(閣僚経験者)と分析する。

要するに、現在の自民党内の権力構図が変わらなければ、総裁派閥・岸田派ナンバー2の林氏や、党内第2勢力・茂木派領袖の茂木氏が首相に就任する可能性が高いとの見立て。まさに現場記者も、安倍氏らの影響力を認めざるをえなかった結果とみえる。

ところが、「5年後」では現場記者の見立てが一変する。福田氏を断然トップ、河野氏を2位としたのは、安倍、麻生両氏ら4人のキングメーカーが影響力を失うとの肌感覚からだろう。5年後には自民党内の権力構図が様変わりすると予測しているわけだ。


■年齢的にはライバル関係の河野氏と福田氏

そこで政界が注目するのは、河野氏が「次」と「5年後」の双方で2位となる一方、「5年後」でトップとなった福田氏との政治的立場の違いだ。1月に59歳となった河野氏に対し、福田氏は3月に55歳となる。年齢差はわずか4歳で、「5年後」には64歳と60歳になるだけに「年齢的には首相候補としてのライバル」でもある。

その一方で、1996年衆院選での初当選以来当選9回、当初から「目指すは首相」と公言し、昨年9月の前回総裁選でも事前予測では大本命とされたのが河野氏。対する福田氏は、まだ当選4回の“駆け出し”で、首相が総務会長に抜てきしたことで突然フットライトが当たったのが実態だ。

すでに総裁選に2回出馬した河野氏が狙う首相就任は、祖父・一郎(故人)、父・洋平両氏に続く3代目の悲願。一郎氏は1964年の前回東京五輪を副総理兼務の担当相で切り回したが、五輪後に退陣した故池田勇人元首相の後継にはなれずに翌年大動脈瘤(りゅう)破裂で急死、死の床で「死んでたまるか」とうめいたとの逸話が残る。

一郎氏の後継者の洋平氏は、1994年に発足した自社さ連立の村山富市政権で自民党総裁での副総理・外相となり、ポスト村山の本命とされたが自民党内の“河野降ろし”で挫折、衆院議長を経ての政界引退を余儀なくされた。まさに、祖父と父が「あと1歩」だったからこそ、孫の河野氏は「今度こそ」の思いが強いとみられる。


対照的に福田氏は、祖父・赳夫(故人)、父・康夫両氏がいずれも首相の座を射止めた3代目。ただ、父・康夫氏の官房長官時代に商社マンから秘書に転身、康夫氏の首相就任に伴い政務担当秘書官となった。その後、康夫氏の政界引退を受けて父の地盤を継ぎ、2012年衆院選で初当選したが、高齢での政界入りから、「首相を支える政治家が目標」として、首相を目指す意思がないことをアピールしてきた。

これも踏まえて福田氏は、当初から祖父・赳夫氏の秘蔵っ子だった小泉純一郎元首相の後継者の進次郎氏を「首相にしたい」と公言。このため、今回の5年後の首相候補ナンバーワンとの現場記者の評価と期待にも「そんなことはありえない」と苦笑するばかりだ。


■「三度目の正直」か「二度あることは三度ある」か

そうした中、永田町では、河野、福田両氏の家系的位置づけに注目が集まっている。「河野氏は『なれない』、福田氏は『なれる』と家系的な明暗がはっきりと分かれている」(自民長老)からだ。

確かに、3代目として今回総裁選で悲願に挑んだ河野氏は、予想外の完敗を喫した。一方、福田氏の祖父・赳夫氏は故田中角栄元首相との激しい角福戦争を乗り越えて首相になったが、父・康夫氏は「なるつもりがなかった」のに党内事情で首相に担がれたのが実態だ。

福田氏も康夫氏と同じ発想とされ、だからこそ今回の結果にも「われ関せず」を装うのだ。ただ、自民党の歴代首相の就任への経過を振り返ると、「首相になれるかなれないかはある種の宿命」(首相経験者)との指摘にそれなりに説得力がある。

文藝春秋をはじめとする過去に行われた有力月刊誌などの「10年後の首相候補」「21世紀の首相候補」などは、いずれも「大はずれが多かった」(月刊誌幹部)のは事実。このため、今回の企画も「当たらないことが前提」(同)との声は多い。

ただ、昔からの格言を踏まえれば、河野氏なら「三度目の正直」、福田氏なら「二度あることは三度ある」となる。今後、両氏が「一寸先は闇」とされる政局の表舞台で存在感を発揮すればするほど、「双方が自らの背負う宿命を意識せざるをえない」(首相経験者)ことになりそうだ。

【泉 宏 : 政治ジャーナリスト】