先を読むのが仕事で最高位の名人獲得経験者でも、29連勝までは読み切れなかった。今も注目して藤井の棋譜を並べる。「彼は秀才型。作戦がうまくスピーディー。欠点が1つもない」。初タイトルの時期は明言しなかったが、絶賛した。

 引退後、将棋を知らない街の人から声を掛けられた「いい後輩ができてよかったですね」の言葉が、加藤九段はうれしいという。

 現在の将棋界は羽生善治3冠ら40代の第一人者が主力を形成。10~20代の若手が脅かす。新人藤井はその先頭に躍り出てきた。「完成した域の達人がそろい、さらに後継者もいる。私は心安んじて引退できます」。予定を5分オーバーしたが、笑みを浮かべながら最後まで満足そうな表情で会見を終えた。【赤塚辰浩】

 ◆加藤一二三(かとう・ひふみ)1940年(昭15)1月1日、福岡県生まれ。劔持松二九段門下。54年8月にプロ入り。60年、20歳で第19期名人戦挑戦者としてタイトル戦初登場。69年、第7期十段戦で初タイトル。82年、第40期名人戦で初名人に。タイトルは計8期獲得。通算2505戦1324勝1180敗1持将棋。通算対局数は歴代1位。今年1月には77歳0カ月の史上最高齢勝利。