埼玉県川越市にある産業観光館「小江戸蔵里(こえどくらり)」にこのほど、日本酒が試飲できる「ききざけ処(どころ)」がオープンした。県内35蔵の地酒が集結。代表銘柄を500円で飲み比べられる。灘を抱える兵庫県や、伏見のある京都府には及ばないまでも、全国でトップ5に入る生産量を誇る、隠れた酒どころ。魅力度ランキングでは最下位から数えた方が早い埼玉県が、PRコンテンツの柱の1つとして期待している。

 左党にとって、小江戸川越が新たな名所になりそうだ。「ききざけ処」に入ると、蔵の階段がひな壇になり、県内35蔵の代表銘柄が並べられている。さらに、ワンコイン(500円)でおちょこ4杯分の地酒の試飲もできる自動販売機もある。

 東京・両国には「東京商店」、新潟県内の越後湯沢駅、新潟駅、長岡駅にはその名も「ぽんしゅ館」と、それぞれの地元の銘酒を試飲できる施設がある。埼玉県内では試飲をさせたり、おつまみを提供する酒蔵もあるが、一堂に会するのは初の試みだ。

 この施設は昨年10月で7周年を迎えるに当たり、改装案が上がっていた。「蔵造りと日本酒のイメージは合う」と、地酒をPRする場所を探していた埼玉県とも思惑が一致した。県酒造組合の協力も得て、開業にこぎつけた。

 埼玉県は日本酒の生産量で、常に秋田県と4~5番手争いをしている。トップの兵庫県(約11万7743キロリットル)、続く京都府(約7万874キロリットル)、3位新潟県(約3万7544キロリットル)とは離されているが、秋田(1万6447キロリットル)埼玉(1万5916キロリットル=2016年「国税庁統計年報」)となっている。

 「荒川と利根川の豊富な水、関東平野で収穫できる米、中山道や日光、奥州街道に代表される多くの宿場町が埼玉の日本酒の歴史をつくった」。蔵里を運営する、「まちづくり川越」の高田泉常務取締役業務企画部長(59)は説明する。長野、山梨との県境にそびえる甲武信ケ岳(こぶしがたけ)を源流とし、西部の秩父市あたりから中央部、南部にかけて流れる荒川水系、群馬県境の北西部から北部、東部への流れる利根川水系が文字通り「源」となった。

 5年ほど前、山口県岩国市にある旭酒造の「獺祭(だっさい)」が海外で注目を浴びて以来、日本酒は復権ムード。「いいタイミングで開業できた。追い風に乗りたい」(高田常務)。

 年間約700万人の観光客が川越市を訪れる。中でもインバウンドは、一昨年の約17万人から昨年20万人あまりと右肩上がり。同市内にあり、トランプ米大統領と安倍晋三首相が昨年11月にプレーした「霞ケ関カンツリー倶楽部」が東京五輪のゴルフ会場になる。埼玉県内でも2年後の競技会場は多い。PRするチャンスが増える。和食文化だけでなく、「クールジャパン」の看板として、「時の鐘」を鳴らす。【赤塚辰浩】