日ロ関係を表現する時、「ロシアの片思い」という言葉がある。ロシア人の多くが日本に好印象を持っているのに対し、日本人はロシアに親しみを持っていないことを表す。各種調査では両国民の互いのイメージは対照的。実際に現地を訪れて感じたのもロシア人は親日家が多いということだった。だが日本がセネガルと死闘を演じたエカテリンブルクを始め、今大会には多くの日本人がロシアを訪れ、現地の人々と交流を深めている。ワールドカップ(W杯)をきっかけに、日本人のロシアに対するイメージも変わっていくかもしれない。

 取材をする際、日本の記者だと説明すると「ロシアはどうだ?」と何度も聞かれた。日本人が珍しいらしく、握手や写真撮影を求められることも多かった。逆に日本の印象を尋ねると、ほぼ全員が「素晴らしい国」など好印象。もちろん、日本人だからと気を使っての発言もあるだろうが、うそを言っているようには見えなかった。

 内閣府が昨年に行った「ロシアに対する親近感」の世論調査では「親しみを感じる」が18%、「親しみを感じない」が78・1%の結果が出た。現代ロシアに詳しい東京外国語大、鈴木義一教授(56)は「北方領土問題や、ソ連時代の社会主義イメージが強い。いまだにステレオタイプ化されたロシア像があるのだろう」と分析した。

 反対に、ロシア人の日本に対するイメージは良い。鈴木教授が14年のシンポジウムで発表した資料によると、11年の日本に対するイメージ調査で「全体的に良い」と答えた人が67%、「全体的に悪い」と答えた人が20%だった。

 ロシアでは日本の印象について「すし」「侍」と答える人もいたが、具体的なイメージを教えてくれる人も多かった。訪日経験がある40代男性は「みんな優しく歓迎してくれて感動した」。会社員アレクセイさん(24)は「日本人は真面目で規則を守る印象。音楽やアニメの文化も素晴らしく、今は80年代のアイドルに興味がある。お気に入りは中村容子だよ」と話した。

 もちろん、批判的な意見もある。反政権デモを取材中、50代くらいの女性に声を掛け、日本人記者であることを告げると「北方領土はロシアのものだ!」と怒鳴られた。ただ、他の参加者は「基本的には政治的な問題。国民レベルで対立する必要はない」との声が多かった。

 W杯は、ロシアが世界に現在の姿をアピールする大きな機会。各開催都市では大規模なインフラ整備や安全対策を進め、サッカーファンを安全に迎え入れている。ある男性からは取材後、「無事に大会が終わり、ロシアは昔とは違うとアピールしたい。日本でも『ロシアは良いところだった』と伝えてくれ」と頼まれた。確かに、ロシアは安全で、美しい国だった。今回、ロシアを訪れた日本人サポーターの多くがそう思うことだろう。W杯後、「片思い」が「両思い」になる日は遠くないかもしれない。【太田皐介】