囲碁の最年少プロ、仲邑菫(なかむら・すみれ)初段(10)が8日、大阪市の日本棋院関西総本部で打たれた第23期ドコモ杯女流棋聖戦予選Bで、田中智恵子四段(67)に大逆転勝ちし、史上最年少の10歳4カ月で公式戦初勝利を挙げた。

これまでの記録は10年、藤沢里菜女流本因坊(20)の11歳8カ月で、9年ぶりに大幅に更新した。天才少女がプロとして大きな1歩を踏み出した。

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持参したピンクの水筒から水分を補給すると、仲邑が攻めに転じた。年齢差は57歳。中盤、大ベテランのミスを見逃さず、劣勢をはね返しての大逆転勝ち。146手で記念すべきプロ1勝を挙げ、公式戦2戦目で最年少記録を樹立した。

終局後、会見の会場には対局中に着ていた白のパーカを脱ぎ、登場した。初勝利の感想を聞かれると、はにかみながら何度も沈黙した。それでも「…勝ててうれしかった」とほっとした表情を見せた。

仲邑は4月22日の第29期竜星戦予選で史上最年少の10歳1カ月で公式戦デビューも、同期入段の大森らん初段(16)に逆転負け。この日が約2カ月半ぶりの公式戦だった。

大阪市内の自宅から会見場に駆けつけた父信也九段(46)は言う。「デビュー戦で負けた後も、ブレずに自分のやるべきことをやっていた」。3歳から毎日7~9時間を囲碁の勉強に費やしてきた。朝起きて、自宅で棋譜並べを何時間かしてから小学校に行くことが日課だ。この2カ月半も変わることはなかった。大人が強要するわけではなく、自らの強い気持ちで続けている。

1人娘のプロ初勝利に、父は「自分の対局よりも緊張した。この1勝はこれまでの娘の勝利の中でも、一番うれしい。私のこれまでのプロの勝利よりも、はるかにうれしい」と喜び、元囲碁インストラクターの母・幸(みゆき)さん(38)と親子3人で「帰りは外食しようと思います」と話した。

公式戦初勝利の歴代最年少トップ5には、井山裕太4冠などタイトルホルダーがずらりと並ぶ。この日の対局の立会を務めた井山の師匠、石井邦生九段(77)は「井山の10歳のときよりも、菫ちゃんの方が強い。才能がすごい。女性だけではなく、男性とのタイトル戦にも出てくると期待しています」と太鼓判を押した。

仲邑は8月5日、本戦入りをかけ金賢貞(キム・ヒョジョン)四段(40)と対戦する。勝てば史上最年少での本戦出場となる。大きな目標の「世界一」へ向けて、大きな1歩を記した。【松浦隆司】