水泳の池江璃花子選手(19)が2月12日に白血病を公表した際、注目されたのが日本骨髄バンクだ。池江の公表後、1カ月半でドナー登録者は約1万8000人増えた。一方で、骨髄提供者を増やすには理解や周知が追いついていない現状がある。日本骨髄バンクは、急性骨髄性白血病を乗り越えて復帰した格闘家ノブ・ハヤシ(41)が、9月11日に都内で開催するチャリティー大会の最新大会を骨髄バンクの周知、普及の好機にすべく連携を強化している。

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2月の池江の告白が、世の中を変えた。日本骨髄バンクには池江を救いたいという声が殺到。ドナー登録者数は通常、1月あたり2000~3000人、通年では3万5000人前後で推移してきたが、池江が告白した2月は1万1662人、3月も7174人と激増。その後も、月に4000~5000人が登録しているという。

18年度の新規登録者数は前年比1万4161人増の4万9151人、総登録者数も2月の段階で91年の設立以来初めて50万人の大台を突破した。日本骨髄バンクの小島勝広報渉外部長は「今までにない動き。(登録者増は)大変ありがたい」と感謝する。「池江選手の報道を見て登録しました」というドナーの中からは、白血球の型である「HLA型」が、患者と適合した人も出てきているという。

一方、ドナー登録の取り消しも18年度は前年比プラス2000人の2万3807人と増加傾向にある。患者とHLA型が適合し、提供に向けたコーディネートを開始した2万4903件中、1万6352件が医師の問診などの初期段階で応諾せず、うち96%がドナー側の理由や都合だった。提供までには複数回医療機関に足を運ぶ必要があるなど、仕事の都合がつかない場合もあるという。

小島氏は「適合した時にお断りされるケースもある。提供できるドナー(の確保)が課題」と語る。増加した登録者が提供者へと前進するには、骨髄バンクの社会的な周知、理解を深めることが不可欠だ。そのために白羽の矢を立てたのが、白血病を克服し、15年から骨髄バンクチャリティー大会を続けるノブ・ハヤシだ。

ノブは30歳だった08年末に急性骨髄性白血病と診断され、09年1月に緊急入院。抗がん剤治療を半年受けて復帰も、同年末に再発。母と2人の姉が看護師で家族の理解があった上、上の姉とHLA型が適合し、10年1月に骨髄移植できた。ただ免疫が落ちていることから移植後、肺炎にかかるなど苦しみ、13年に11月に4年ぶりに復帰するまで、闘病生活は6年に及んだ。

患者の苦しみを知っているからこそ骨髄バンクの重要性を伝えたい。「僕が試合することで骨髄バンクに興味を持って欲しいし、闘病中の患者さんにも生き様、やっていることを見せたい。格闘家として体を張るしか出来ない」との思いからチャリティー大会を立ち上げた。

日本骨髄バンクもこれまで会場にブースを設置するなどしてきたが、9月の大会では、今月7日の発表記者会見から参加し連携を強化している。「移植を受けた方が格闘技までやっている姿は、患者が未来に勇気を持てる。何より人気のある方なので理解者が増える」(小島氏)。池江で骨髄バンクに興味を持った人と患者を、戦うノブの背中が後押しする。【村上幸将】

◆ノブ・ハヤシ 本名は林伸樹。1978年(昭53)4月27日、徳島市生まれ。15歳で空手を始め高校卒業後、単身でオランダに渡り名門ドージョーチャクリキに入門。逆輸入ファイターとして99年のK-1JAPANGPに出場し準優勝。00年7月に1回KOで屈したアンディ・フグさんが同8月に急性白血病で35歳の若さで急死し最後の対戦相手に。04年10月にドージョーチャクリキ・ジャパンを立ち上げ館長に就任。190センチ、120キロ。

<骨髄バンクアラカルト>

◆ドナー登録の要件 (1)18歳以上54歳以下(2)体重が男性45キロ、女性40キロ以上。

◆ドナー登録できないケース (1)病気療養中や服薬中(2)輸血を受けたり貧血、血液の病気の人(3)最高血圧151以上または89以下、最低血圧が101以上の人。

◆データ登録 日本骨髄バンクから登録申込書を取り寄せて記入し、全国の献血ルームや保健所に提出。HLA型を遺伝子検査するために2ミリリットルを採血し登録。

◆提供までの流れ 患者とHLA型が適合すれば提供意思確認の書類が届く。確認検査をへてドナーに選ばれると、家族を交えて最終同意。採取1~2日前に入院。骨髄提供の場合は全身麻酔をかけ、うつぶせで腸骨(腰の骨)に針を刺して採取。2時間程度で済み、全身麻酔が切れると尻もちをついたような鈍痛が1日~1週間程度残る。数日後に退院可能。