2020年の東京オリンピック(五輪)・パラリンピックのメイン会場となる国立競技場(東京都新宿区)が15日、報道陣にお披露目された。一部ベールを脱いだ「新・スポーツの聖地」の印象を観客目線でルポする。

外観はまず、木と緑が目に飛び込んでくる。木材は全国47都道府県から集められ、競技場の北側は北海道や東北、南側は九州や沖縄の木材を使用するなど、配置にもこだわる。

競技場周辺はもちろん、中層階も植栽が周囲をぐるりと取り囲む。桜やスイセンなどの草花など計110種類。ふんだんに木と緑が組み込まれ、落ち着いた気分になる。

ゲートを通ってフィールドに入った瞬間、驚いた。誰もいないはずの観客席が、ほぼ観客で埋まっているように見えた。完成予想図を見て分かっていたはずだが、完全に錯覚に陥った。

観客席はアースカラー5色で展開。木材をふんだんに使用した屋根を森と見立て、客席の色は木漏れ日をイメージしている。関係者によると、下層階は地面に近い茶色、中層階は木や草花に近い緑色、高層階は空に近い白色を多くした。

一見、規則性がない配色に見えるが、実は設計者の隈研吾氏が1つ1つ配色を決めたという。配色の妙で客席が人で埋まっているように見える錯覚は斬新だった。

上層階の観客席からトラックを眺めると、意外に近く見やすく感じた。関係者によると、客席は下から20、29、34度の斜度があるため、どこからもトラック全体が見渡せる設計になっているという。座席の前後の間隔は以前より広くなったようだが、広くなった印象は正直ない。ただ、座面が上がる仕組みのため、誰もいない場合は間隔が広く感じられ、通りやすかった。

少し気になったのは、配管がむき出しになった箇所が数多く見受けられたこと。関係者は「お金をかけるところにかけて、かけないところにはかけない。メリハリをつけた設計」とコスパの良さを強調した。

とはいえ、そもそも整備費は1569億円と大金がかかっている。そう思ったところ「むき出しの方がメンテナンス上は正解で、悪い部分を発見しやすいし、交換もしやすい」と説明され、すぐに納得がいった。

5階の展望スペース「空の杜」には、競技場を1周する約850メートルの遊歩道を設けた。さまざまな木や草花が遊歩道を彩る。ベンチも所々に置かれている。

関係者によると、東京五輪・パラリンピック終了後、「空の杜」を一般開放することを検討している。ジョギングは禁止のようだが、木や緑を感じながら歩き、遠くにスカイツリーや東京タワー、新宿の高層ビル群など東京の景観を楽しめるのは気持ちが良かった。

また、チケット売り場の窓口の位置が一般的なものよりも低く感じた。車いすを使う人もチケットを購入できるようにと、配慮されたデザインだった。

各競技場で長蛇の列が必至なトイレは全面公開されなかった。配置場所など気になるところだが、オスメイト対応トイレなどバリエーションは増えたようだ。

外観は全体的に木と緑が多く、親しみを覚えたが、夜になってライトアップされると印象が変わった。なかなかカッコいい。夜空とのコントラストがはっきりしているせいか、ぬくもりに洗練さが加わったように見えた。【近藤由美子】