「オンライン帰省」が求められたゴールデンウイークで、味覚・嗅覚異常がありながら山梨県の実家に高速バスで帰省、その後、PCR検査で陽性反応が出たにもかかわらず高速バスで帰京した東京都の20代女性がネットで大炎上している。「山梨帰省の20代女性」など複数のハッシュタグがうまれ、「特定班」が出動。「確証はありません」としながらも名前、住所、写真、勤務先などをさらす事態となっている。

女性や家族が当初、検査結果が出る前に帰京したと説明していたことや、帰京理由が「飼っている犬が心配だったから」と釈明したこと、味覚異常がありながらバーベキューをしていたことが火に油を注いだ。「テロ行為です。全て公表すべきです。みんな自粛で頑張っているのに憤りしかありません」「味わかんないのにBBQってもう突っ込みどころ満載なんすけど」「救いようのない愚か者。特定されて社会的に終わればいい」「犬のせいにするな」「戒めのためにもつるし上げる事が必要。皆、自粛で苦しんでいる中、許せない」など激しい批判が並んだ。

収束の気配を見せない未知のウイルスへの不安、出口の見えない自粛が続く不満、明るい話題のない鬱々(うつうつ)とした状況が、フラストレーションとなって、軽率な行動をした女性に集団で向かったとみられるが、攻撃内容はプライバシーにかかわり、人権問題レベルだ。「(ネットの方が)コロナウイルスより怖い」との声も書き込まれている。「県内55例目の感染者」として女性の症状・経過、行動歴を発表した山梨県では「女性や家族に配慮してほしい」と訴えている。

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広瀬弘忠東京女子大名誉教授(災害・リスク心理学) PCR検査はドイツの16分の1で、実際はどこまで拡散しているのか分からない。客観的なエビデンスがない中で、エンドマークがどこでつけられるのか、基準がないまま我慢を求められる。見通しがないため、恐怖が支配している。一種の魔女狩りで、スティグマ(烙印=らくいん)を負わせ、攻撃することで留飲を下げる。非難すべき点があったにしても、住所、氏名、職業、交友関係まで洗いざらい拡散するのは、社会的生命を奪いかねない行為で、明らかに異常です。

 

碓井真史新潟青陵大教授(社会心理学) 人ごとではなく、いつ自分が、自分の家族がという自分事として、みんながえたいの知れない不安を抱えている。大型連休なのに外出もできないという不満もある。不安、不満が高まると、攻撃性が高まります。たたく相手を探していて、今回、1人の女性に向かった。多分、自分が悪いことをやっている意識はないと思います。コロナに関しては感染予防が正義で、それを破るのは悪。寄ってたかって集団私刑のようになった。出口は見えないけど、みんなちょっと落ち着こうよ。

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◆新型コロナとバッシング 欧州旅行で感染した学生が帰国後、ゼミやサークルの懇親会に出席し、クラスターが発生した京都産業大には「大学に火を付ける」「学生を殺しに行く」など脅迫電話、メールが相次いだ。郡山女子大ではエジプト旅行から帰国した女性教授が感染。付属高校の生徒が駅や街中で嫌がらせを受けたほか、大学と高校に約150件の非難や抗議の電話、メールが入った。緊急事態宣言で営業自粛が始まると、営業を続けていないか監視する「自粛警察」「自粛ポリス」が自然発生。通報したり、張り紙するなどの騒動が相次いでいる。