5月に入って、新型コロナウイルス感染症(かんせんしょう)で効果が期待される「レムデシビル」が、アメリカや日本で治療薬として使っていいと認められました。日本では、「ファビピラビル(商品名アビガン)」という薬も使用が認められる予定です。これらはどんな薬で、どんな効果があるのでしょう? この薬と「ワクチン」は違うのでしょうか? ワクチンはいつできるのでしょう? 医学ジャーナリストの松井宏夫さんのお話とともに説明します。【取材、構成=久保勇人】

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世界では、今ある薬の中から、新型コロナウイルス感染症に効く薬を探す研究が行われていますが、最近特に注目を集めている薬がレムデシビルやアビガンです。アメリカは1日にレムデシビルを治療薬として使用することを急いで認めました。日本でも、薬をつくったアメリカの会社ギリアド・サイエンシズがすぐに申請し、「特例承認(とくれいしょうにん)」といって特別に早く認められました。

レムデシビルは、もともとエボラ出血熱という病気の治療のためにつくられました。ヒトの体内に入ったウイルスが増えるのをおさえるのではないかといわれます。新型コロナでは主に重症(じゅうしょう)の患者(かんじゃ)に使われます。副作用として、下痢(げり)、肝臓(かんぞう)や腎臓(じんぞう)の障害などの可能性があるそうです。

日本では、富士フイルム富山化学という会社が開発した新型インフルエンザの薬アビガンも、新型コロナ治療薬として使用許可される見通しです。発生地の中国で使われて注目され、藤田医科大などで臨床(りんしょう)試験などの研究が進められています。これもウイルスが増えるのをおさえる働きがあると考えられています。ただ動物実験で胎児(たいじ)に影響もみられたため、妊婦(にんぷ)さんや子どもをつくろうとしている男女などには使えません。

ノーベル医学生理学賞の北里大学・大村智特別栄誉教授が貢献して約40年前に開発した、寄生虫(きせいちゅう)をやっつける薬「イベルメクチン」も、ウイルスが増えるのをおさえる効果が期待されています。

ほかにもさまざまな薬が研究されていて、世界中で研究中の治療法は100に上るともいわれます。新型コロナ感染から回復した人の血液の血漿(けっしょう)を使う研究も始まっています。感染者の体内でつくられた、ウイルスを攻撃する抗体(こうたい)を、患者の体内に入れる方法だそうです。

<医学ジャーナリスト・松井宏夫さんに聞く>

-レムデシビルやアビガンなどの薬への期待が高まっています。これらは、ワクチンではないのですか

松井さん 全然違います。今話題になっているのは治療薬です。病気を薬でやっつけようということです。ワクチンは、ヒトが持っている「免疫(めんえき)」という仕組みを使って、ウイルスをやっつけるのです。ウイルスや病原体が体の中に入ってくると「抗体(こうたい)」というものができ、悪いヤツだと覚えていて、次に同じものが入ってきた時に攻撃します。ワクチンはウイルスなどを弱くしたものなどを予防接種(よぼうせっしゅ)として体に入れて、悪いヤツとの闘いを経験、準備させるわけです。主にウイルスなどを弱くした「生ワクチン」と、病原性をなくした「不活化(ふかつか)ワクチン」があります。生ワクチンは、はしか、BCG、おたふくかぜなど。不活化ワクチンにはインフルエンザ、破傷風(はしょうふう)、日本脳炎(のうえん)などがあります。

-新型コロナのワクチンは、いつになったらできそうですか

松井さん 今回は世界中が急いで開発していて、早くて1年~1年半といわれていますが、簡単ではありません。開発は、研究→臨床(りんしょう)試験→申請(しんせい)→承認(しょうにん)と進められます。臨床試験だけでも、<1>少数の健康な人を対象に安全性などを確認→<2>少数の患者を対象に安全性、有効性、使い方などを確認→<3>たくさんの患者を対象に偽薬(ぎやく)と比較して安全性、有効性などを確認と3つのフェーズがあり、数年かかるのが普通です。新型コロナウイルスは、感染拡大とともに変化しているかもしれないともいわれます。今の研究でできたワクチンが使えるようになった時、それが効かないウイルスになっている可能性もあります。

-レムデシビルやアビガンは、どちらもヒトの体内に入った新型コロナウイルスを増やさない働きがあるといわれます。効くのでしょうか

松井さん 効果については、使ったほうが早く回復したという報告も、あまり効果はなかったという報告もあります。説明したように薬が使えるようになるまでには普通とても時間がかかりますが、緊急事態(きんきゅうじたい)とあって今回はアメリカでも日本でも、急いで認めることにしたということです。

-特効薬(とっこうやく)というわけではなさそうですね。ほかにどんな薬が候補になっていますか

松井さん 例えば、「シクレソニド(オルベスコ)」という気管支(きかんし)ぜんそくの吸入(きゅうにゅう)薬は、ウイルスが増えるのをおさえるのではないかといわれています。膵炎(すいえん)の治療に使われる「ナファモスタット(フサン)」という薬は、ウイルスが細胞に入るのを防ぐ働きがあるのではないかとみられています。

-新型コロナに効く薬を探すために患者に使ってみて、安全なのでしょうか

松井さん 例えば、レムデシビルは肝機能障害(かんきのう・しょうがい)、腎臓(じんぞう)障害などの可能性があるといわれています。アビガンは妊婦(にんぷ)さんや子どもをつくる予定の男女には使えません。「薬=クスリ」は、反対から読むと「リスク」です。副作用もありますから、患者にも十分に説明をして、十分に納得してもらった上で使いたいものです。

◆松井宏夫(まつい・ひろお) 1951年、富山県生まれ。医療最前線の社会的問題に取り組み、分かりやすい医療解説に定評。名医本のパイオニアとしても知られ、日刊スポーツでも連載多数。日本医学ジャーナリスト協会副会長、東邦大学医学部客員教授。

◆久保勇人(くぼ・はやと) 1984年入社。静岡支局、文化社会部、アトランタ支局、スポーツ部などを経験。国内の事件、皇室、旧ソ連崩壊、ペルー大統領選などを担当。オリンピックは92年バルセロナ、96年アトランタ、00年シドニーの現地取材、デスクを担当した。