将棋の藤井聡太七段(17)が4日、史上最年少でのタイトル初挑戦権を得た。東京・千駄ケ谷「将棋会館」で行われた、第91期ヒューリック杯棋聖戦挑戦者決定戦で午後7時44分、100手で永瀬拓矢叡王・王座(27)を下し、渡辺明棋聖(36)への挑戦権を獲得した。同じ中学生で棋士となった渡辺とのタイトル戦5番勝負第1局は8日、同所で開催される。大舞台に藤井は17歳10カ月20日で初登場。屋敷伸之現九段(48)の持っていた最年少挑戦記録を4日上回り、31年ぶりに歴史を塗り替えることになる。

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藤井がラストチャンスをモノにした。公式戦初対決の先手永瀬の仕掛けをしのぎ、反撃を始める。苦戦の末、投了に追い込んだ。「(史上最年少挑戦の)意識はせず、盤に集中しようと思って臨んだ。挑戦できてうれしく思います」。マスクを外すのを許可された別室でのリモート会見で、ほっとした表情を見せた。

永瀬とは練習将棋を行う間柄。インターネットテレビ局ABEMA(アベマ)が今年企画して現在進行中の、3人1組の団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」では同じチームに所属する。現タイトル保持者などトップ棋士12人が主将となり、2人をドラフトで選ぶという趣向だ。実績を評価された藤井は永瀬から1位指名された。手の内を知り尽くされた先輩に、しっかり恩返しした。

昨年11月の王将戦挑戦者決定リーグ戦でもチャンスはあった。4勝1敗同士の広瀬章人竜王(肩書は当時)との直接対決。混戦の末、最後に受け間違えて敗れた。以来、「力をつけて強くならないといけない」と、タイトル挑戦にかける思いをよく口にしていた。

昨年度、史上初の3期連続での勝率8割超えを達成した直後、対局ができなくなった。新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が出て、長距離移動を伴う対局は延期。4月10日の王位戦挑戦者決定リーグを最後に、愛知県瀬戸市の自宅に「巣ごもり」した。「自分の将棋にしっかり向き合うことができた」。その成果が出た。

デビューから3年半、タイトル戦への出場を目標としてきた。「現実的に難しいと思いましたが、最高の舞台で挑戦できるのはうれしい」と話す。

渡辺棋聖とは昨年2月の朝日杯決勝で初めて戦い、勝ち、この同杯連覇を達成した。対局後に藤井は、相手の読みになかった攻めを指摘。「勝てる手順を逃して一方的に負けた」と、第一人者を残念がらせた。

その2カ月後、都内で行われた平成の将棋界を振り返るイベントで2人は同席した。藤井を意識してか、席上で渡辺は、「僕は引き立て役になりたくない」と公言した。

今回は異例の強行軍で戦う。「すぐ開幕になるので、しっかり準備したい」。加藤一二三・九段、谷川浩司九段、羽生善治九段に続く、中学生棋士同士の頂上対決。次は屋敷の持つ史上最年少タイトルホルダー(18歳6カ月)の更新を目指す。「1勝でも多く勝てるように頑張りたい」。コロナを吹き飛ばす活躍が期待される。【赤塚辰浩】

◆将棋のタイトル戦 タイトル保持者と挑戦者が、5番勝負または7番勝負で優勝を争うプロ公式戦。竜王戦、名人戦、叡王戦、王位戦、王座戦、棋王戦、王将戦、棋聖戦があり、8大タイトル戦と呼ばれる。挑戦者決定方法は各タイトル戦で異なり、1年をかけて行われるリーグ戦やトーナメントで決まる。タイトル戦以外では、NHK杯戦などの一般棋戦がある。

◆藤井七段の勝ち上がり

<2月29日>

斎藤慎太郎八段 前王座(1期、18年度)

詰め将棋大好きな居飛車党。愛称「さいたろう」

<3月31日>

菅井竜也八段 元王位(1期、17年度)

藤井の天敵。新手を編み出す振り飛車党

<6月2日>

佐藤天彦九段 前名人(3期、16~18年度)

クラシック音楽が好きな「貴族」

<6月4日>

永瀬拓矢2冠 叡王(1期、18年度)王座(1期、19年度)