海部俊樹元首相が、今月9日に亡くなっていたことが14日、分かった。水玉ネクタイがトレードマークで、幸世夫人とのおしどり夫婦ぶりなど、それまでの総理大臣とはちょっと違ったイメージを持ったことを覚えている。

その海部氏は1994年、それまで所属した自民党を離党した。平成となって初めての首相で、支持率も高かった海部氏は、政治改革関連法案をめぐり党内の反発に遭い、最終的に総辞職に追い込まれた。

その後、自民党は分裂し野党に転落したが、自社さ政権で政権に復帰しようとした中での首相指名をめぐり、海部氏は党の方針に従わず、党を離れることになった。

当時、自民党を離党するに当たって心残りはあるかと記者に問われた海部氏は、こう答えたのだという。

「自民党のカレーが食べられなくなる」

自民党のカレーとは、自民党本部8階食堂で出されているカレーライスのこと。食べた瞬間は甘いが、あとからじわっとスパイシーさが追っかけてくる。議員や職員、政治記者にもファンが多い人気メニューだ。

2013年5月、日刊スポーツ社会面で「GW限定 食物語」という連載を掲載した時、私は歴代総裁をはじめ多くの人に愛されてきた自民党本部のカレーを、取材対象に選んだ。その取材をする中で、海部氏のエピソードを知った。

自民党本部のカレーは、党本部で開かれる数々の会議の昼食に出されることも多い。厨房(ちゅうぼう)から運ばれる際には、カレーの香ばしい香りが漂う。

食堂にはほかにもメニューはあるのだが、カレーはやはり人気だ。会議の合間を縫って昼食を取る際に選ばれるのは、スプーン1つで食べられる気軽さ。それに加えて「みんなで同じものを食べ、結束を確認する」という、自民党が大事にしてきた「一致結束」の象徴でもあったからだ。

党を離れる決心をした海部氏にとって、結束の象徴でもあったカレーライスとの別れは、自民党との別れをより強く実感させるものだったのではないか。

海部氏は自民党離党後、新進党で初代党首を務めた後、自由党などを経て、2003年、小泉内閣の時、自民党に復党した。食べ親しんだ懐かしいカレーライスを、海部氏が再び口にすることはあったのだろうか。【中山知子】