将棋の里見香奈女流4冠(30=女流王座・女流王位・女流王将・倉敷藤花)が27日、大阪市の関西将棋会館で行われた棋王戦予選決勝で古森悠太五段(26)を99手で破り、女流棋士として史上初のタイトル戦の本戦に進出した。同時にプロ棋士相手の直近公式戦成績を10勝4敗とし、プロ編入試験を受けるのに必要な「最近の公式戦で10勝以上、かつ勝率6割5分以上」の条件を満たし、女性で初めて受験資格も得た。

鋭い攻めで「出雲のイナズマ」の異名を持つ里見の勢いが止まらない。ダブル快挙のかかった大一番。先手の里見が中飛車、古森が三間飛車、戦型は相振り飛車戦となった。里見が積極的に攻め、難解な最終盤も落ち着いた指し回しで鮮やかに寄せきった。

終局後、予選5連勝での本戦進出に「自分でもここまで勝てるとは思っていなかった。実力以上のものが出せたのかな」と喜んだ。タイトル戦の本戦は挑戦者を決める最終ラウンドに当たり、これまで予選を突破した女性はいなかった。約30人が出場する棋王戦本戦トーナメントでは、「魔王」こと渡辺明棋王(38)への挑戦を目指す。

プロ編入試験の資格を得たことには「すごく光栄なことだと思っています」。将棋界の女流棋士はプロ棋士とは別制度で、長い歴史の中で棋士になれた女性は現在までいない。里見は15年10月から奨励会の最高段の三段リーグを5期、戦ったが、18年3月に26歳の年齢制限のため退会した。カベは厚かった。

新たなチャンスを得た里見が受験するには、1カ月以内に申請する必要となる。若手棋士5人が「試験官」を務める棋士編入試験5番勝負で、3勝すれば合格となり、史上初の「女性棋士」の誕生となるが、「今日は勝てると思っていなかったので、あまり前向きではないが考えたい」と悩ましそうに話し、「大きな決断となる。自分の中で強い気持ちが出てくれば」と態度を保留した。【松浦隆司】

◆棋士編入試験 将棋のプロ棋士になるには原則、プロ棋士養成機関「奨励会」で半年ごとに行う三段リーグで、上位2人に入り、26歳までに四段に昇らなければならない。もう1つの道が棋士編入試験。06年に制度化され、直近の公式戦10勝以上、勝率6割5分以上の成績を収めると受験資格を得られる。

◆里見香奈(さとみ・かな)1992年(平4)3月2日、島根県出雲市生まれ。師匠は森けい二・九段。04年10月、女流棋士デビュー。08年、16歳で初タイトルの倉敷藤花を手にした。12年5月、史上2人目の女流名人、女流王位、女流王将、倉敷藤花(とうか)の女流4冠達成。女流タイトル獲得は最多の47期を誇る。里見咲紀(さき)初段は妹。