2022年(令4)も残すところわずか。道産子選手らの活躍で沸いた北京五輪(2月)に始まり、強豪撃破で日本中が熱狂したサッカーW杯カタール大会まで、話題盛りだくさんの1年。あの日、あの時、あの勝負…舞台裏も含めて、担当記者が22年の出来事を振り返る。

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忘れることのない現場だった。4月、知床半島沖で乗客乗員26人が乗った観光船「KAZU I(カズワン)」が遭難した事故を受け、現地で取材にあたった。プロ野球を中心に約5年間、スポーツの取材経験がある私だが、事故報道の現場は初めてだった。亡くなった被害者の遺族と行方不明者の家族を思うと心が痛み、複雑な気持ちでいっぱいだった。

4月30日、現地対策本部が置かれる斜里町内に集まる報道陣を前に、悲痛な思いを明かした遺族がいた。全力を尽くして捜索にあたっている関係者らへの感謝の言葉を口にした後で、報道陣の取材活動について思いの丈も述べられた。宿泊先へ押しかけるなど執拗(しつよう)に取材することについて苦言を呈した。

遺族 なぜ私たちをそっとしておいていただけないのでしょうか。それが報道の使命ですか。それで商売するんだろ、ふざけるな。みなさんの報道のあり方、みなさんのモラル、非常に残念です。

遺族の声に下を向くしかなかった。その言葉を耳にした瞬間、カメラを向けることができなくなった。周りからもシャッター音が止まった。

被害者遺族の言葉であらためて考えさせられた。新聞記者の使命とはなにか。真摯(しんし)に取材対象者と向き合い、真実を読者に伝えることではないだろうか。一生懸命と過剰とでは全く意味が違う。取材もその通りだと思う。事故から8カ月が経過。船は海から引き揚げられたが、いまだ6人が行方不明のまま。テレビや新聞の報道は当時に比べ減ったが、遺族は悲しみの中で生活を送っている。毎日真剣に職務にあたることが今の私の使命だと感じている。【山崎純一】