子どもへの虐待や送迎バスでの置き去り。22年は保育の現場で「不適切保育」の問題が相次いで明るみに出た。事件が起こる背景や改善するためには何が必要なのか専門家に聞いた。

静岡県裾野市の保育園では、園児をカッターナイフで脅すなどの虐待をして保育士3人が暴行の疑いで逮捕された(うち2人は処分保留で釈放)。保育の現場に詳しい保育研究所の村山祐一所長(80)は「本当に悲しいことで許せないことだ」と憤りをあらわにした。その上で「事件の原因をはっきりさせていく必要がある」と話した。

村山さんは相次ぐ不適切保育について、保育士の業務負担の大きさに問題があると指摘した。事務作業や、保育士同士で保育を振り返る時間が確保しにくいといい「どこもギリギリの状態。流れに沿うだけのような保育をやらざるを得ないところまで、保育士は追い込まれている」と訴えた。

政府の配置基準では、保育士1人に対して0歳児3人、1~2歳児6人、3歳児20人、4歳児以上は30人となっている。4歳児以上の配置基準は財源不足などから74年にわたって変更がない。政府は21日、この基準は維持したまま、手厚い配置を行った保育園などに、来年度からの補助金を拡充することを決めた。村山さんは「どの保育園も国の基準以上の人数を配置している。それでも人が足りていない」と語った。その上で政府に対して「子どもを守るためにも、保育士にゆとりがある環境を考えて欲しい」と強調した。

静岡牧之原市の幼稚園で9月、当時3歳の園児が通園バスに取り残され、熱中症で死亡した。国交省は事件を受けて20日に、バスに取り付けることが義務化された安全装置のガイドラインを公表した。装置は運転手らが車両後部の解除装置を操作することで確認を促す「降車時確認式」と、カメラなどのセンサーによって子どもを検知する「自動検知式」の2つ。公益社団法人日本技術士会登録の「子どもの安全研究グループ」の瀬戸馨研究員は「装置を付けたからといって、必ずしも安全というわけではありません。見回りをする人はカメラの死角まで見る。後方のスイッチを押すことだけを目的にしてはいけない」と話した。【沢田直人】

 

◆2022年に明らかになった不適切保育

▼12月 新潟市の保育園で21年9月、当時の園長が園児の顔にホースで水を掛けた

▼8月 富山市の認定こども園で保育士2人が計4人の園児を逆さづりにするなどの暴行を加える。保育士2人は暴行容疑で書類送検

▼9月 静岡牧之原市の幼稚園で当時3歳の女児が通園バスに取り残され、熱中症で死亡

▼10月 千葉県松戸市の保育園で男児の頭を弁当容器でたたくなど、3人の保育士から計10件の不適切保育を市が確認

▼12月 静岡県裾野市の保育園で男児の顔を殴るなどしたとして、保育士3人が暴行容疑で逮捕された。釈放され、任意で捜査

▼12月 熊本市中央区の乳児院で19年度~21年度、職員が乳幼児に対して「顔面偏差値低いよね」などと発言していたことが発覚