1978年(昭53)9月にオープンし、大型書店の先駆けとして知られた「八重洲ブックセンター本店」(東京都中央区)が3月31日、所在地を含む一帯の再開発計画に伴い、44年にわたる現建物での営業の歴史に幕を閉じた。午後8時の営業終了時間が近づくと、客たちが長い列をつくりながら入店。店の周りには客や元従業員ら200人近くが集まり別れを惜しんだ。

営業終了を受けて1階の入り口前でセレモニーが行われ、作家の東野圭吾氏が寄せた「私にとって未知の世界につながる異空間であり、アイデアの発掘現場でもありました」というコメントが読み上げられた。

また、作家の北方謙三氏があいさつに駆けつけ「(営業終了の)話を聞いた時には本当に信じられなかった。私はこの店で本がどれくらい大事だったのかということを何度か経験した。しばらく休んでしまうのは、本当に悲しい」と語った。一方で「今後どういう書店ができるのか、楽しみでもある。書店は私にとって心のふるさとで、八重洲ブックセンターも心のふるさとだ。何年後かにすばらしい書店ができることを祈念したい」と話した。

同店は地上8階、地下1階の各フロアに幅広い種類の本をそろえ、在庫は100万冊以上といわれた。店員の知識の豊富さでも知られた。もともとはゼネコン大手鹿島の旧本社があった場所。会長を務めた故鹿島守之助氏の「どんな本でもすぐに手に入る書店」という思いを形にした店舗で、JR東京駅に近く、地方からの客を含めて客層も広かった。

店内の一角には客らが思い出をつづったカードが所狭しと張られた。1階の柱には、湊かなえさんや川上未映子さんら多くの作家もメッセージを書き込んだ。

同店はこの日でいったん営業を終えるが、再開発後の2028年度に竣工予定の超高層複合ビル(地上43階、地下3階、高さ約226メートル)に、将来的な出店を計画する。山崎厚男社長は「本当に多くの皆さま方に支えられた44年。あらためて感謝を申し上げます」とあいさつ。「思いもかけない本との出会い、立地柄、仕事や勉強に役立つこと、本を選んだり買い回ることの楽しさ、待ち合わせ場所やカフェで休憩する場所として、さまざまなことを提供してきたと思う。役割、使命はこれからも変わることなく続いていくと確信している」と述べた。

仮店舗の開設を検討していることも明かし「しばらくはお待たせすることになるかと思いますが、必ず帰ってまいります」と、誓った。【中山知子】