対話型人工知能(AI)の1つ「チャットGPT」を、全国の自治体で初めて全庁的に試験導入した神奈川県横須賀市が5日、4月20日から41日間利用した実証結果を公表した。職員の半数に当たる約1900人が、文案作成、要約、校正、アイデア出しなどに利用(利用数は計2万5897件)。アンケートに対し、約8割が「仕事の効率が上がると思う」「利用を継続したい」と回答した。文書作成の場合、1人1日10分の業務時間短縮が想定されると試算した。一方でチャットGPTが比較的得意ではない「検索」の利用が3割ほどあり、5割近くが回答の精度に不満を持ったという。

横須賀市は本格導入に切り替え、今後は▼アドバイザーに同市出身の専門家・深津貴之氏を起用▼活用スキル強化プログラム導入▼職員を対象にプロンプト(AIへの指示・質問)コンテスト実施▼現在使用のGPT-3・5よりも精度が高い「4」の導入などの展開を予定し、指示・質問のスキルアップなどの課題の解決に取り組む方針。また全国の60超の自治体から問い合わせがきており、今後は研修なども企画しノウハウを伝えていくという。なお、対話型AIをめぐり流出が懸念される個人情報や機密情報については、入力を禁じている。

上地克明市長は会見で「かなり効率は上がると思う。この取り組みを進めて、事務作業はどんどんAIにまかせ、職員にはAIでは代替できないもの、すなわち人間特有の創造性や優しさが必要とされる業務に集中させていきたい。全国の自治体がAIとうまく共存し、職員も市民も幸せになる未来を夢見ています」などと強調した。

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対話型AIは、今年に入って日本でも企業や行政の現場で活用を試行する動きが加速。賛否両論が交錯する中で、横須賀市は4月18日、自治体でいち早く全庁的に試験導入することを発表し、同20日から活用実証を始めた。この時の報道発表資料の文末には「なお、本リリースはChatGPTで下案を作成し、職員が校正を行いました」と書かれていた。同市デジタル・ガバメント推進室の寒川孝之室長は、いきさつを「きっかけは市長です。3月29日に、行政に使えないか考えてと指示されました」と説明する。

チームを立ち上げ、遊び感覚で使ってみながらセキュリティーを含めて検証・確認。その上で、20年に導入し、全庁で職員が活用している自治体向けビジネスチャット「LoGo(ロゴ)チャット」(トラストバンク社)の中に、チャットGPT-3・5に接続する「ChatGPTボット」を自作し、職員が使い慣れた環境で経験できるようにした。青木伸広主査は「このような経由だと、AI側が入力した情報を学習のために2次利用しないという規約があるからです」と指摘する。当然、職員には情報リテラシーの教育はしてきており、導入にあたっては改めて、個人情報や機密情報を使った質問の入力や、庁外に出る文章を校正せずにそのまま使うことも禁じた。チームとしては、まずは職員に触ってもらうことをテーマにスタートしたという。

試験導入を発表すると、取材や全国の自治体からの問い合わせが殺到。寒川さんたちは、想像以上の反響の大きさに驚き、改めて注目の高さを実感した。問い合わせがあまりに多いため、他の自治体でも利用が多いロゴチャットの中に資料を掲載し、共有してもらうなどしたという。

横須賀市で利用可能な職員は約3800人。デジタル・ガバメント推進室が4月27日から中間アンケートを実施したところ、約半数がある程度利用していることが分かった。一方で、検索などチャットGPTが比較的得意でない利用をしている人が一定数いて、5割弱が回答の精度に不満を持っていることも浮上。チームは、正しい用途の理解やよりよい回答を引き出すために指示・質問力の向上を図る必要があると判断し、5月に2度、具体的な使い方を例示するなどした「チャットGPT通信」を配信した。5月23日から最終アンケートを実施したところ、「ときどき利用している」の回答が、最初のアンケート時から増加。検索など用途に向かない使い方が減少するなどしたという。

チャットGPTはさまざまな指示や質問に答えることができるが、どんな点が自治体の業務と親和性、可能性があるのだろうか。チームの村田遼馬さんは「自治体の仕事は記録を残したり、コミュニケーションを取ったり、文書や言葉を使うことが多い。チャットGPTは国語が得意な人というイメージで、自治体にとって可能性があります」と話し、青木さんも、文章作成能力を指して「役所の業務と親和性が高いと思います」という。

寒川さんは「文書をまっさらな状態から全部を書けば、相当な労力や時間がかかります。チャットGPTの回答を下書きにして方向性が見えれば、作業効率に貢献すると思います。ちゃんと条件を設定すれば、それなりの回答が出るので、どんな答えが返ってくるか楽しみながら使っていきたい。市長は、チャットGPTを使えばもっと分かりやすい文書をつくれるようになるから、活用しようと話しています。市民に分かりやすい文章をつくるために、使っていきたいです」と使い方のコツを強調する。

企業や自治体の中には、慎重な姿勢をみせるところもあるが、横須賀市では実際に使い始めてみると、前向きな職員が多かったという。「旅に行くのに自転車か飛行機か、火をおこすのに火打ち石を使うかライターを使うかという話です。簡単なほうがいいし、それで浮いた時間をほかのことに使えばいいと思います。1日10分短縮できれば、1年間にすればそれなりの時間になります。あくまで下書きですが、便利な道具は正しく使わなければもったいない。一部で不安な声もありますが、ネットが普及してきたときと同じような印象です」と寒川さんは主張する。

深刻な少子高齢化、人口減少によって、自治体も今後、職員の減少傾向が避けられそうにない。仕事が横ばいか増えるならば、デジタル技術を活用して業務の効率化を図るしかない。その意味でも、上地市長の積極的な姿勢はAIへの期待の大きさを物語っている。【久保勇人】

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横須賀市がチャットGPTを使えるよう独自に接続したLoGoチャットは、地方自治体職員が庁内や他の自治体とのファイルやメッセージのやりとりなどを安全性の高い行政専用回線で実施し、業務効率化を実現するツール。提供するトラストバンクによると、19年11月のリリース以降急速に普及し、23年2月時点では全国の自治体の3分の2にあたる、1199自治体(関連団体含む)が導入している。全国の自治体職員2万5000人以上が参加するオンライングループもあり、他の自治体職員と業務課題や成功事例について議論したり、情報共有したりもできる。

横須賀市など独自に連携した事例が出たこともあり、トラストバンクには、多くの導入自治体からチャットGPT連携サービスを提供してほしいとの要望が増えているといい、検討・開発を進めているという。現状では自治体によって賛否や温度差もある。同社の担当者は「懸念の声にも正しいものがあり、いい議論ができていると思っています。そうしたところを解決していかないと、普及しないのではと思います」と話した。