21年10月、映画「バットマン」シリーズの悪役ジョーカーに扮(ふん)して、東京都調布市を走行中の京王線特急電車内で、乗客1人を刺して車両に火を付け、計13人を殺害しようとしたとして、殺人未遂などの罪に問われた無職服部恭太被告(26)の裁判員裁判の公判が31日、東京地裁立川支部で開かれ、竹下雄裁判長は服部被告に懲役23年(求刑懲役25年)の実刑判決を言い渡した。

服部被告は黒のスーツに青いネクタイを締め、丸刈りの頭で出廷。竹下裁判長から呼ばれると「はい」とはっきり返事をして、検察側に一礼。続けて竹下裁判長らに頭を下げて、証言台の前に立った。背筋や指先まで意識して姿勢を保っているように見えた。判決を言い渡された直後の表情はうかがえなかったが、返事の声色は変わらなかった。弁護側の席に戻っても、終始無表情のままだった。

竹下裁判長は服部被告の一連の犯行について「凶悪で卑劣である」「被害者の恐怖や不安は計り知れない」などと述べた。同様な事件の中でも「特に重い部類の事案」と指摘した。

判決では争点だった放火による乗客12人全員に対する殺人未遂罪ついて、10人の成立を認めた。残る2人に関しては、服部被告がライターを点火した時点で危険が及ぶ場所にいなかったなどと判断した。服部被告はこれまでの公判で、放火による殺意を「分かりません」と起訴内容を一部否認していたが、判決では複数人が死亡する可能性があることを認識していたと認められた。

最後に竹下裁判長は服部被告に対し「長い服役になる。この間に事件、被害者、社会復帰したことを考えて」といい、続けて「苦しくても生きてね。償いをすることを忘れないで下さい」と語りかけた。服部被告は「はい」と小さく返事をした。

犯行時は緑色のシャツに紫色のスーツ。約2年前のハロウィーン当日、服部被告は悪役に「なりきろう」と思い、ジョーカーの仮装で犯行に及んだという。SNS上では、車内に立ちのぼる炎やパニックになる乗客の姿など、恐怖の瞬間を映した動画が瞬く間に拡散された。公判では頭を丸刈りにして、黒のスーツ姿で出廷。「死刑になりたいと考え、人を殺さなくてはいけないと思うようになった」と犯行動機を説明。身勝手な理由を述べた一方で「どれだけ愚かで、多くの人に迷惑をかけ傷つけるか、事件を通して感じた」「申し訳ないと思う」などと謝罪していた。【沢田直人】

◆京王線刺傷事件の公判 服部被告は「殺人未遂」「銃刀法違反」「現住建造物等放火」の罪で起訴された。公判では服部被告が20年11月の自身の誕生日に、9年間交際していた女性から婚約を破棄され、勤務先の会社で21年6月、顧客対応のトラブルが原因で部署異動を指示されたことが明らかになった。服部被告は「死刑になりたいと考え、人を殺さなくてはいけないと思うようになった」と説明。「申し訳ないと思う」などと謝罪した。論告求刑公判では刺された男性の代理人弁護士が「犯人のことはずっと憎んでいる。憎しみが消えることはありません」と男性の心情をつづった書面を読み上げた。