子どもの深刻な性被害が相次いで明るみになる中、政府が導入を目指している「日本版DBS」に注目が集まっています。英国の制度を参考にした、子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する仕組みです。創設への期待が高まる一方で、さまざまな意見もあり、実現へは難問山積とされます。どんな内容になりそうなのか。たたき台となる、こども家庭庁の有識者会議の報告書と、英国の制度の要旨をまとめてみました。
◆こども家庭庁の有識者会議の報告書 主な内容
【基本的な視点】 教育、保育などを提供する事業者は、<1>支配性、<2>継続性、<3>閉鎖性の点で、従事する者による、子どもに対する性犯罪・性暴力を防止する責務を負っている。業務に従事する者の性犯罪歴の有無を確認する仕組みを導入する必要がある。職業選択の自由などを制約するため、対象範囲を無限定に広げることは許されない。対象事業者は情報を安全に管理できるもの。
【対象事業者】 学校教育法などで認可などを受けている学校や児童福祉施設などは、性犯罪歴の確認を法律上直接義務づける。対象例は学校、認定こども園、保育所、児童養護施設など。できるだけ広く対象に含め規制をかけることが適当だが、学習塾、スイミングクラブ、習い事などは事業者の範囲が不明確で監督などの仕組みが整っていないため、認定制度を設け、認定を受けたものは確認を義務づける。認定事業者は国が公表。
【確認対象とする性犯罪歴など】 性犯罪前科(被害者の年齢を限定しない)を対象。条例違反は各自治体ごとに制定され、内容にばらつきがある上、国が把握する仕組みがないなど技術的課題があるため検討が必要。盗撮や痴漢の一部は対象に含まれ得る。示談などによる不起訴処分(起訴猶予)を対象にすべきという意見もあったが、裁判所の事実認定を受けていないため、慎重であるべき。行政処分や企業の解雇処分も対象にすべきという意見もあったが、基準や考え方が異なるため、検討には時間を要する。自主退職は、犯罪に当たると考える時は告発をするなど適切に対処すべきとの意見。対象とする前科の期間は、刑法34条の2が刑の執行終了から5年または10年で刑の効力を失うとしている趣旨も踏まえ、必要性・合理性が認められる範囲で一定の上限を設ける必要があるとした。
【運用】 個人情報保護法で犯罪歴は開示請求などの適用除外。本人の同意などの関与の上で事業者が申請し、事業者に回答する。回答は性犯罪歴の有無だけでなく、特に重大な犯罪であるなど一定の類型にあたるかなどを回答することも考慮。本人が自分の性犯罪歴の確認を申請できるようにすると、その他の事業に就職しようとする時も確認結果の提出を求められる事態が生じかねない。確認義務違反や情報漏えいに対しては罰則を設けるべき。
◆英国のDBS(Disclosure and Barring Service) 子どもと関わる職種はボランティアなども含めて犯罪歴確認を行うことが、一定の例外を除き、義務化されている。事業者がDBS側に確認を申請し、DBSから本人に証明書が発行され、本人が事業者に提出する。組織は内務省が所管し、運営スタッフは1200人以上。対象の事業者は子どもに危害などを与える恐れがある者がいる場合はDBSに通報義務があり、DBSは「子どもや脆弱な大人と接する仕事に就けない者のリスト」もつくっている。ほかの職種でも事業者が犯歴を確認でき、4種類の証明書がある。